日本は小型原発の開発に乗り出す-。経済産業省幹部が都内での国際会議で表明した前日、兆しがあった。
11月13日、国費で運営する日本原子力研究開発機構が東京・有楽町で開いた、一般向けの研究報告会。テーマの一つは、小型原発のうち、半世紀にわたって研究が続く高温ガス炉だった。高速炉・新型炉研究開発部門の国富一彦副部門長が、壇上で言い切った。
「わが国が有する高度な高温ガス炉技術を利用して、(小型原発は)早期に実現が可能です」
従来の軽水炉は原子炉を水で冷やすのに対し、高温ガス炉はヘリウムガスで冷やす。このガスは、燃料電池に使う水素の製造に利用できる。HTTRでは、他国の炉よりも高い950度のガスを取り出すことに成功。高温だと、水素製造の効率が上がる。
従来の原発と決定的に異なる特長もある。出力調整のしやすさだ。ガスの圧力を下げれば、15分で発電量を75%下げられる。天候次第で不安定な太陽光など再生可能エネルギーの発電量に合わせて調整ができる。発電量を下げてもガスの温度は保たれ、水素の製造に影響しないという。
「再生エネとのハイブリッド」。機構は高温ガス炉をこうPRするようになった。水素製造と調整能力で「相性」の良い再生エネと抱き合わせ、需要を高めようというわけだ。
機構は2040年代の実用化を目指すものの、HTTRは福島事故後、未稼働で研究は停滞。来年の再開を目指すが、原子力規制委員会の審査が終わらない。さらに実用化には、新たに「実証炉」の建設と民間の協力が不可欠でもある。
1990年代のHTTR建設時は日立、東芝、三菱重工といった原発大手など多くの企業が参加。峯尾英章・高温ガス炉研究開発センター長は「オールジャパン態勢だった」と言う。
だが、環境は変わった。業界関係者は「今後、国内で原発の新増設は極めて難しい。新たな投資は考えにくい」と口をそろえる。
使用済み核燃料の問題も残る。100万キロワット級で軽水炉と比べると、運転4年後に出る使用済み核燃料の量は4分の1で済むが、処分先は宙に浮いたままだ。
機構は他国との連携に望みをつなぐ。温室効果ガス削減のため、石炭火力から高温ガス炉への切り替えを検討するポーランドが有力候補。ただ、中国が来年にも実証炉稼働を計画しており、日本とポーランドとの関係に影響が出かねない。
高温ガス炉で水素製造の実証試験が始まるのは、早くても27年。しかし、再生エネの普及は、水素製造の手段も変えつつある。20年には福島県浪江町で、太陽光による電気で水素製造が始まる。その工場は、原発の建設予定地だった場所に立つ。 (小川慎一)