大阪高裁に続き、三十日には広島地裁が原発の運転を容認する決定を出した。どちらも原発の新規制基準や原子力規制委員会の審査に疑問をはさまず、追認する内容だ。だが、新基準は政府が強調する「世界一厳しい」には程遠い。核のごみや新たな事故への資金的な備えなど未解決の重要課題も棚上げにされたままだ。(山川剛史、小川慎一)
東京電力福島第一原発の事故後、福井地裁の樋口英明裁判長(当時)と大津地裁の山本善彦裁判長が合わせて三件の運転差し止めを命じる判断を示した。福島事故の状況を踏まえ、新基準や避難計画の実効性に疑問を示した。特に樋口裁判長は、安全より経済優先の風潮に苦言を呈し、原発事故の当事者は二百五十㌔圏内に及ぶと踏み込んだ。
新基準は、要求通りの安全対策を講じれば、福島のような深刻な事故は起きない、との楽観的な仮定をしている。周辺住民を守る最終手段である避難計画の実効性は、審査の対象にしていない。
新基準で安全性が多少向上したのは事実。だが、発電後に残る放射性廃棄物の最終処分への対応は白紙状態で、後世に問題を付け回す無責任な状況のままだ。
また、新たな原発事故が起きた際にその処理費用はどうするのかという問題も放置されている。ただでさえ国民は二十一兆五千億円(現在の政府見積もり)に及ぶ福島事故の負担を強いられている。新たな原発事故への資金的な備えは千二百億円強の保険があるだけ。足りない分は、また後付けで負担させられるのは間違いない。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県)は広島地裁のほかに、松山地裁や大分地裁、山口地裁岩国支部の三カ所でも運転差し止めが申し立てられている。今後、いずれかの裁判所が、運転差し止めの決定を出せば、停止に追い込まれる。
脱原発弁護団全国連絡会によれば、松山地裁では審議が終わり、決定を待つだけとなっている。大分地裁や、山口地裁岩国支部でも審議が続いている。
ほかの原発では、九州電力玄海3、4号機(佐賀県)で、裁判所が近く判断を示す。玄海は、新基準適合とされ、今夏にも再稼働が見込まれる。
稼働中の九州電力川内(せんだい)1、2号機(鹿児島県)では、裁判所が住民の求めを退ける決定をしており、住民側は訴訟で争っている。
関西電力大飯(おおい)3、4号機(福井県)に対する仮処分は現時点では申し立てられておらず、訴訟が進行中。運転開始から四十年超の高浜1、2号機と美浜3号機(同)は新基準に適合させる工事に数年かかり、運転開始が迫っていないため、仮処分は申し立てられていない。 (荒井六貴)