ルポ・福島第一30キロ圏を歩く 遅れる農地除染 効果頭打ち 水源への放射能蓄積へも対策を

 放射性物質に汚染された東京電力福島第一原発の20~30キロ圏内では、住宅周りの除染が猛烈な勢いで進んでいる。それに比べ、目立つのが農地の除染の遅れだ。土地を掘り返し汚染された表土と深い土を入れ替える反転耕などで一定の効果はあるが、周辺の放射線量の影響もあり、効果は頭打ちだ。線量計を手に農地を回った。 (大野孝志、山川剛史)

表土はぎ取りが進む農地。除染後の土地では線量が3分の1だった

至るところで「除染中」の看板、農地の線量は宅地の倍以上

 南相馬市や飯舘村、川内村など放射能の影響が中程度に残る地域を回った。
 向かう途中、驚かされたのは、除染関連の車の多さだった。道沿いのいたるところに「除染作業中」の看板が立てられ、住宅、庭先、路面、側溝、道路脇の山林などで作業が進んでいた。
 除染には一兆円を超える公費が投じられるが、まさに一大産業と化していた。
 そのかいあってか、手元の線量計は、地上約一メートルの位置で毎時〇・二マイクロシーベルト(一マイクロシーベルトは一ミリシーベルトの千分の一)前後を指し、年間被ばく線量を一ミリシーベルト(住宅の遮へい効果も考慮した値は毎時〇・二三マイクロシーベルト)に抑える目標が達成されつつあるかのようにも思えてくる。
 だが、国や自治体が除染を終えた農地を回ると、そんなに甘くはないことを痛感させられた。
 農家の庭先は〇・二マイクロシーベルト前後なのに、わずかしか離れていない農地に入ると値が上がり始め、〇・五マイクロシーベルト前後を示した。線量計の故障を疑ったが、何軒訪ねても同じ傾向で、乗り越えにくいカベのようなものを感じた。
 南相馬市の志賀恒夫さん(57)は「除染が終わっていないあぜから放射性物質が田に流れ込んでいるのかな」と首をかしげた。
 除染前の農地は一マイクロシーベルトを超えていたから、汚染土をはぎ取ったり、農機具で地中の土と表土を反転させたりした効果は確かにある。除染に加え、福島第一で汚染水処理に使われている鉱物のゼオライトをまき、植物が放射性物質を吸い上げにくくする工夫もされる。出荷前には検査しており、農作物の安全確保への努力が続く。

 ◆続く奮闘

 ただ、この先は半減期の長い放射性物質が残り、線量が下がるスピードは落ちる。農家からは「事故当初に比べれば、どうってことない」との声も聞かれるが、働く農家の体は本当に安全といえるのか、不安が残った。
 農地を訪ねるうち、とても気になったのが水のことだ。
 飯舘村の未除染の田んぼでも、志賀さんの田んぼでも、脇を流れる沢周辺の線量は一段高い値を示した。
 川内村の久保田健男さん(78)の畑でも、除染前にもかかわらず、収穫したミョウガの放射能濃度は食品の摂取基準(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を大幅に下回る三〇ベクレルだった。ただ、近くの沢で釣ったイワナは四〇〇ベクレルとかなり汚染されていた。
 南相馬市の半谷(はんがい)勝彦さん(60)は、用水の水源地が除染していない山であることを考え、基本的に水やり不要のカボチャ中心に作付けする防衛策に出た。「雨が降れば、濁った水が上流から流れてくる。とても使えないよ」と話した。
 農業には水が不可欠だ。水のことまで考えた戦略を練らないと、せっかく巨額の除染費用を投じても、再び農地が汚染される可能性は十分ある。福島で除染の方法を研究している京都精華大の山田国広教授(環境学)は「山全体を除染するのは不可能なので、田畑に水を入れる前に、沈殿槽のようなものをつくり、水の中の微粒子を沈めるなどの対策が必要だ」と指摘している。

(メモ)田畑の除染

 国の指針で、汚染度の高い深さ5センチほどの表土をはぎ取り、別の場所の土を入れる「表土はぎ」をする。または、表土と30センチほど下の土とを入れ替える「反転耕」で、汚染された土を地下に閉じ込める。除染前に耕したことのある田畑では既に汚染土が拡散しており、通常より深い20~30センチまで「深耕」して土の汚染濃度を薄める。

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