風評被害は抑えられるのか 福島第一原発の「処理水」放出で海底トンネル建設へ

 東京電力は8月25日、福島第一原発の汚染水を浄化処理した後の水について、海底トンネルを通じて原発の沖合1キロへ放出する案を示した。放出開始を目指す2023年春まで2年を切り、処分方法が具体的になってきた。(小野沢健太、小川慎一)

敷地内に処理水のタンクが立ち並ぶ東京電力福島第一原発=2021年3月、福島県で、本社ヘリ「おおづる」から

理解得るため「沖合」

 海底トンネルは直径2.5メートルの鉄筋コンクリート製。5号機東側の海沿いの敷地に立て坑を掘り、その側面から沖合へ約1キロにわたって海底の岩盤をくりぬく。放出口として想定する1キロ先は海底に頑丈な岩盤があり、砂地よりも工事がしやすいという。

 放出先は、漁業権が設定されずに漁が行われていない区域(原発の東西1.5キロ、南北3.5キロ)内。これまでは原発北側にある5、6号機の放出口を使うことを想定していたが、東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は記者会見で、「風評被害への影響を考えた」と説明した。

 ただ、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は海洋放出に「断固反対」の姿勢を維持。東電は15年、福島県漁連に「関係者の理解なしにいかなる処分(海洋放出)もしない」と約束した。理解が得られなかった場合の対応について、小野氏は「そうならないよう努力する」と答えを避け続けている。

 放出の際は、処理水に大量の海水を混ぜて薄め、浄化処理で取り除けない放射性物質トリチウムの濃度を国の排出基準の40分の1となる「1リットル当たり1500ベクレル」未満に下げる。

 処理水は1万トンずつ放出する。一度空にした立て坑(容量2000トン)に20トンほどの処理水と一定量の海水を入れ、混ざった状態でトリチウム濃度を測定。計算通り薄まっているかを確認してから、トリチウムが基準未満に薄まるように海水を立て坑に入れ、あふれた水が海底トンネルから海へ流れていく。放出はこの手順を繰り返す。

数十億円規模の工事に

 大規模工事の海底トンネル建設にはどれだけの時間と費用がかかるのか。東電は「海底地盤の詳しい調査をしないと分からない」と明かそうとせず、現実的な案なのかはっきりしない。

 地下トンネルの工事に詳しい九州大学の三谷泰浩教授(地盤工学)は「地質によるが、掘り始めれば立て坑とトンネルは1年くらいで完成するだろう」。費用は同じ工法の実績を踏まえると、数十億円規模とみる。放出開始予定は23年春。「地盤調査や地元との交渉など着工前の手続きも考えると、微妙な状況ではないか」と指摘した。

海水や魚のトリチウム濃度測定を強化

 東電は2022年春から、福島第一原発の周辺海域で海水や魚に含まれるトリチウムを測定するモニタリング(監視)を強化する。処理水放出によっても安全性が確保されていることを国内外に発信し、風評被害を抑えるのが狙いだ。

 海水の測定は、原発の港湾内を含めると計32カ所で実施している。現在分析しているのは主に放射性セシウムで、うち23カ所はトリチウムも対象だ。最近の結果をみると、不検出が多く、検出できても基準値を大幅に下回っている。

 トリチウムの測定は大幅に拡充する。処理水を放出する立て坑では毎日実施するようにし、2キロ圏内の採水地点は3カ所増やす。2~20キロ圏内(6カ所)での測定を2週に1回から週1回にし、20キロ圏外(9カ所)も月1回調べる。

 また20キロ圏内の11カ所で魚を月1回採取し、体内に蓄積しているトリチウムを測定する。22年夏からは原発構内で、トリチウム濃度を放出基準に薄めた処理水を水槽に入れてヒラメなど魚介類や海藻を飼育し、蓄積状況を調べる。

トリチウムとは

三重水素と呼ばれ、放射能を帯びた水素。酸素と結合してトリチウム水になる。宇宙からの放射線が大気中の窒素や酸素とぶつかることで生成され、自然界にも広く存在する。普通の水と分離は難しく、福島第一原発の汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)では取り除けない。放射線(ベータ線)は弱く、人体に入っても大部分は排出。放射能は約12年で半減する。世界各国の原子力施設で、トリチウムを含む水が海に放出処分されている

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