放射能の食品基準を緩和?!

 東京電力福島第一原発事故を受け、食品に含まれる放射性セシウムの濃度は1キロ当たり100ベクレルの基準値が定められた。食に関係する人々の努力で、流通している食品は確実に基準値を下回っている。一方、事故から10年たったのを機に、政府・自民党は、基準値が妥当かどうか検証を進める方針を決めた。大幅に緩和される可能性もあるが、あらためて食を巡る現状を見渡した。(山川剛史)

2021年3月31日付 こちら原発取材班
今年3月に出された自民党PTの提言内容と政府の方針
食品基準をめぐる経過
日本と海外の食品基準の違い

福島の農作物や魚の状況

 2012年産から全袋検査を実施。会津地域では当初から原発事故の影響は小さかったが、中通り地域や浜通り(主に南相馬市)では基準値超えも出た。カリウム散布などコメへの汚染を防ぐ手法が確立され、急速に状況が改善した。20年産からは地域を絞った全袋検査に移行した。検査は玄米で実施しているが、白米にすると放射性セシウムが検出されることはほぼない。
 原発事故が起きた2011年は海水魚、淡水魚とも高濃度に汚染されていた。しかし、海水魚は年を追うごとに急速にセシウム濃度が下がり、徐々に出荷制限する魚種を減らし、漁獲高を増やしてきた。今年2月、1件の基準値超えが見つかったクロソイは出荷停止となっているが、本年度は80匹を調べてセシウムが検出されたのは問題の1匹だけだった。
 淡水魚は、生息域の環境や代謝が海水魚とは異なり、濃度低下のスピードはゆるい。養殖ものでは検出事例はない。

測ってみないと分からない野山の恵み

 一方、除染などが実施されていない野山では、東日本を中心に原発事故の影響が広範囲に残る。品目、市町村ごとに出荷制限・解除がなされているが、同じ地域でもセシウム濃度には大きなばらつきがある。これまでの記者の測定経験では、「野のものは、測ってみないと何とも言えない」が実感。
 近年では、刻まずとった形のままセシウムを測定できる非破壊検査装置の性能が向上。福島県飯舘村の装置の測定値(10分)と、正規の手順にのっとった本紙の測定値(4時間以上)を比べたところ、基準値超えを排除するレベルなら十分な精度がありそうだった。

山菜(コシアブラ)や野生キノコ、ジビエの出荷制限

飯舘村の非破壊検査装置で、採った山菜を測定する伊藤延由(のぶよし)さん

各県が調べたコシアブラの検査結果

苦労する原木シイタケ栽培と原木生産

 シイタケはセシウムを2倍前後に濃縮するため、栽培用の原木は1キロ当たり50ベクレル以下が目安。全国有数の原木産地だった福島県や栃木県は厳しい。原木シイタケ農家は西日本産の原木を使い、コスト高に苦しんでいる。
 立ち木のまま濃度を測定できる機器の開発や、汚染が集中する樹皮を削るなどの対策が研究されている。

原木シイタケの出荷制限(露地栽培)

下手な基準緩和は風評被害を拡大の恐れも

 基準値の緩和の動きについて、生産者や行政、研究者らに意見を聴くと、「粛々と100ベクレルの基準を満たすのみ」「下手に緩和されると、消費者にごまかしと受け取られ、かえって風評被害を広げかねない」との声が聞かれた。緩和の動きを歓迎する声はなかった。
 山の産物は大きな課題だが、ジビエ(野生の鳥獣肉)については検査を条件に出荷を解禁することが認められ始めている。コシアブラ以外の山菜では、あく抜きでセシウムが半減、塩漬けして塩分を抜くとさらに効果のあることが実証されている。検査装置を道の駅などにもっと配備し、測って出荷することをルールにすれば、消費者の信頼と出荷量の増につながる可能性もある。

各県が調べたジビエの検査結果

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