稼働停止9年の浜岡原発 揺らぐ利点

 東京電力福島第一原発事故後、中部電力が菅直人首相(当時)の要請で浜岡原発(静岡県御前崎市)の運転を全面的に停止してから5月14日で9年となった。中電は地球温暖化対策や経済性を理由に再稼働を目指す姿勢を貫くが、原子力規制委員会の審査を通過するめどは立っていない。再稼働が遅れるほど運転可能年数も短くなるだけに、識者からは再生可能エネルギーの開発に注力すべきだとの声も漏れる。(伊藤弘喜)

中部電力浜岡原発=静岡県御前崎市で(本社ヘリ「まなづる」から、浅井慶撮影)

顧客との会話で話題上らず 審査も長引き

 「お客さんとの会話で浜岡原発が話題に上ることが減った」と中電営業担当者は苦笑する。2014年に電気料金を上げた当初は「いつ再稼働して、値下げをするんだ」という声も寄せられたが、最近はめっきり少なくなったという。
 再稼働を目指す浜岡3~5号機のうち、先行して審査に入った4号機は申請から6年たつ。それでも設備対策の前提となる基準津波(最大想定の津波)と基準地震動(最大想定の地震)を確定するための審査がようやく終盤に入った段階だ。
 さらに新型コロナウイルスの感染対策でテレビ会議にした審査会合の開催頻度が落ちている上、施設や設備の対策が十分かの審査も残っている。再稼働には静岡県など地元自治体の同意も必要で「いつ再稼働を見込めるかを語れる段階にはない」(中電幹部)状況が続く。

費用かさみ投資回収難しく

 浜岡原発は稼働しなくても維持管理に年間1000億円かかる。防潮堤の建設など設備対策費は約4000億円。さらにテロ対策の特定重大事故等対処施設(特重施設)の工事では、3基に各400億~500億円の追加投資が必要になる見込みだ。
 中電幹部らは「稼働さえすれば元は取れる」と口をそろえるが、これまでの投資額を回収するには、停止前は7割前後だった稼働率を9割近くまで引き上げることが必要という。これは国内では前例のない水準。福島の事故後、原発の運転期間は原則40年と規定され、浜岡の3基は27~45年に期限を迎える。規制委が認めれば20年の運転延長は可能だが、特例という位置付けだ。再稼働が遅れて運転期間が短くなるほど採算は厳しくなり、中電が「発電コストが安い」とする原発の利点が揺らぐ。

中電社長「温暖化対策で重要」、識者「LNGで稼いで再生エネ投資を」

 4月に就任した林欣吾社長は「浜岡原発は低炭素化に向け、重要な役割を担う」と、地球温暖化対策という側面も強調する。
 国はエネルギー供給構造高度化法に基づき、小売り電気事業者に対し、再エネと原発を合わせた非化石電源の比率を30年度までに計44%以上にする目標を課している。中電が自前で開発した再エネは18年度実績で10%程度。約40%と高い9州電力は原発の比率が高いだけに、中電内部には「再エネだけでは目標を達成できない」という思いもある。
 だが、エネルギー業界に詳しい国際大の橘川武郎教授は「中電は浜岡抜きでもやっていける」と異を唱える。その理由に挙げるのが東電と設立したJERA(ジェラ)の存在だ。JERAは火力発電の燃料になる液化天然ガス(LNG)の取引量が世界最大級。二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力への逆風が強まる中、LNG火力での需要が高まり、安定した収益が見込めると指摘し「LNGで稼ぎながら再エネへの投資を進められる」と強調する。

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