原発事故処理に再エネ財源流用 政府提出のエネ特会改正案

 国会で審議中の「エネルギー対策特別会計(エネ特会)改正案」に識者らから疑問の声が上がっている。同法案は再生可能エネルギー普及のための財源を、東京電力福島第一原発の事故処理にも流用できるようにする狙いだが、再生エネ普及の遅れにつながりかねない。復興庁設置法改正案など計5本の「束ね法案」のため審議が国民に見えづらく、識者らは「通しやすい法案と束ねることで追及を避ける禁じ手」と政府の法案提出手法も問題視する。法案は5月22日に衆議院を通過、今週にも参議院審議が始まる。 (石川智規)

政府「束ね法案」で争点隠し

 政府のエネ特会は国の一般会計から切り離した特別な会計で管理しており、会計内の各勘定も事業や経理を区分して管理している。特定の財源を特定の目的に限って使うことで経理を明確にするためだ。
 だが、改正案は勘定間での資金のやりくりを解禁。再生可能エネルギーの普及などに使途を限定する「エネルギー需給勘定」(エネ需勘定)の資金を、「原子力災害からの福島の復興に関する施策」に関しては、原発振興や福島原発事故処理を目的とする「電源開発促進勘定」(電促勘定)に繰り入れられるようにする。
 背景には福島原発事故処理の費用が膨らみ電促勘定が逼迫(ひっぱく)している事情がある。本来事故処理は東電の負担で行うはずだったが、政府は2013年末に一部を国が負担すると閣議決定。14年度から汚染土を保管する中間貯蔵施設の費用として電促勘定から約350億円を投入してきた。だが中間貯蔵費用の総額推計は当初の1兆1000億円から1兆6000億円に拡大。毎年の投入額も約470億円に膨らみ、いずれ資金不足に陥る見通しだ。
 再エネ開発のための資金が転用されることで、先進各国に比べ遅れている再エネの普及はさらに遅れる懸念がある。財務省の担当者は国会答弁で「繰り入れは一時的で、後日繰り戻す規定も設けている」と説明したが、いつ資金が返済されるかは法案に明記されていない。
 法案はエネルギー政策を審議する経済産業委員会ではなく、東日本大震災復興特別委員会で審議されている。「束ね法案」として復興庁の設置期間を10年間延ばす改正案などと抱き合わせられたため、震災復興の議論に比重が傾き、エネ特会についての質疑はほとんどなされていない。
 震災復興に詳しい名古屋大の斉藤誠教授は「エネ特会はただでさえブラックボックスと呼ばれる。勘定間のやりくりを認めると、特別会計の分別を越えてしまう」と指摘。元経済産業省官僚の古賀茂明氏も「公務員の定年延長に検察庁法改正案を潜り込ませたのと同じ束ね法案で不透明。原発より再エネに投資すべき時代要請にも逆行している」と批判する。

エネルギー対策特別会計とは?

 国の一般会計とは別に区分された特別会計の一つ。「エネルギー需給勘定」と「電源開発促進勘定」、「原子力損害賠償支援勘定」で構成される。エネ需勘定は石油石炭税が財源。再エネ開発や石油、天然ガスの開発に使われる。電促勘定は一般家庭などの電気料金から上乗せ徴収する電源開発促進税を財源に、原子力政策や原発立地自治体への交付金などに使われる。

【解説】再エネ普及にしわ寄せ、膨らむ福島事故費

 政府のエネルギー対策特別会計の改正案は、東京電力福島第一原発の事故処理費用を再生可能エネルギー普及に使う財布からまかなう「不透明な会計処理」を、国民の目の届きにくい「束ね法案」で成立させようという2重の意味で不透明な政策といえる。脱原発や脱炭素社会に向けた再エネ普及にもしわ寄せが及びかねず、日本のエネルギー政策を見据え、慎重に議論すべきだ。
 改正案は、原発事故処理の新たな財源確保をねらう。背景には、原発の事故対応費用が膨らみ、将来的に資金が不足しかねない懐事情がある。
 当初1兆1000億円のはずだった中間貯蔵施設に必要な費用は短期間で1兆6000億円に膨張。この先もさらに拡大すると見込まれている。汚染土の最終的な処分策が未確定なためだ。
 改正案は本来再生可能エネルギーの技術開発に使われるはずのお金を汚染土処理に投入することになる。
 政府は「後日に繰り戻す規定を設けている」とし、再エネ資金をいずれ返すというが、政府の財政事情に詳しい専門家は「資金は絶対に戻ってこない」とみる。
 この結果、洋上発電や、再エネを受け入れやすい送電線システムの開発研究などに投入されるべき資金は投じられず、日本の再エネ普及はさらに遅れる懸念がある。
 エネルギー需給勘定から電源開発促進勘定に流用されるお金は、いまのところ「福島原発事故からの復興のため」とされている。しかし同勘定からは原発が立地する自治体への交付金や、原発の開発資金も出ており、「原発振興」という時代に逆行した目的にお金が使われないかの不安も残る。
 再エネよりも原発政策を重視する政府の姿勢も問われる。問題の多い改正案だけに束ね法案で議論を埋没させてはならない。 (石川智規)

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