福島の漁業 子どもの身近に 埼玉大出身・榊さん、いわきに鮮魚店

 東京電力福島第一原発事故の影響が続く福島県沿岸の漁業の今を伝えようと、埼玉大出身の榊裕美さん(28)が2月、福島県いわき市の久之浜港近くに鮮魚店「はま水(すい)」を開いた。目指すは「みんなの魚屋さん」。子どもたちと漁業の距離を縮めるため奮闘している。(福岡範行)

魚のイラストや漁の写真で店内を飾った榊裕美さん=福島県いわき市久之浜町の鮮魚店「はま水」で

 笑ったように見えるアナゴ、網から外されるサケ。漁師だけが知る海の景色の写真が壁一面を埋める。ミズダコを筋肉質な人に見立てたイラストもあった。
 「漁業に携わりたいという女子高生に相談したら、魚を擬人化するアイデアを出してくれて」。榊さんが声を弾ませた。
 活動の原点は、3年前の出来事。久之浜の小学6年生から「船が動いているのを見たことがない」と聞いた。港町に暮らすのに、目の前の海でどんな魚が取れるのかも知らない。「子どもたちの中で、漁業が身近じゃなくなっている」
 2011年9月、大学2年の時に東日本大震災で津波被災した久之浜町をボランティアで訪れてから、通うようになった。卒業後は月数回に増え、青森出身にちなみ「りんごちゃん」と地元の人から呼ばれるように。17年には埼玉大大学院を休学し、いわき市に移住した。
 大学院で「漁業と地域と教育」を研究し、地元のまちづくり団体に「子どもの漁業体験をやってみてはどうか」と提案。それが今の活動につながる。

「ありのまま伝えたい」

 モットーは「ありのままを伝える」。17年秋、地元の小学生20人とサケ漁の船に乗った。水揚げしたてのサケに驚く子どもたちを前に、調理体験では事前に用意した別のサケに替えた。残念がる子どもたちにこう言ったという。
 「これは使えませーん。放射能の検査をしてないから、食べられません。これが試験操業です」
 福島沿岸の魚介類から放射性セシウムは検出されなくなった。それでも漁業関係者は出荷前に必ず検査をしている。原発事故から9年が過ぎても、漁業は手探りの状況が続いている。
 移住後は漁師に魚をもらうことが増え、魚を包丁でさばけるようになった。18年12月には地元漁師らと合同会社「はまから」を設立。インターネットを通じた寄付で資金380万円を集め、「はま水」の開店にこぎ着けた。「地元の魚がやっと食べられる」と住民からも喜ばれている。
 「ヒラメは寝かせるごとに味や食感が変わって、かめばかむほど甘みが出て…」。榊さんは魚の魅力を語り出すと止まらない。いずれは県外の子どもたちにも漁業を体験してもらいたいという。「みんなの魚屋さん」の実現に向け、第一歩を踏み出したばかりだ。

「はま水」は午前10時~午後4時に営業(火曜定休)。問い合わせは=電080(5738)5417=へ。

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