汚染水処分、滞る議論 福島第一タンク 2年後にも満杯

 海に流すか、タンク保管を続けるか-。東京電力福島第一原発で、汚染水の浄化処理後も残るトリチウムなどの放射性物質を含んだ大量の水の扱いが岐路を迎えている。政府は海洋放出を有力視するが、有識者会議の議論が停滞。東電は政府方針を待つだけで判断を先送りにし、自ら計画したタンク容量の限界が迫る。 (松尾博史)

構内には高さ10㍍の巨大なタンクが立ち並び、高濃度汚染水を浄化処理した後の水など110万トン超を保管している(代表撮影)

人ごと

 「(処分する場合は)風評被害などの問題が出るので、事業者として意思表示するより、まずは国に示してもらう必要がある」。東電廃炉担当トップの小野明氏は3月28日の記者会見で、汚染水の処分について問われると、人ごとのように静観を決め込んだ。
 福島第一構内に目を移せば、時間的余裕はそれほどない。立ち並ぶ約960基の巨大タンクに、トリチウムなどを含む水110万トン超を保管。事故直後に比べて汚染水の発生量は減ったが、浄化処理後に保管する必要のある水が今後も年間5万~10万トン新たに出る。
 東電は2020年末までに137万トン分のタンクを確保する計画だが、早ければ2年程度で容量が限界に達する。処分方法が決まったとしても、他の放射性物質が法令基準を超えて含まれているため再浄化が必要な上、新たな設備の建設などに年単位の期間がかかると見込まれる。方針決定まで時間的余裕はない。

棚上げ

 浄化処理後の水の処分を巡っては、政府の有識者会議が16年6月に海洋や大気中の放出など五つの処分方法を提示。5カ月後には、処分で懸念される風評被害などの影響を検討する別の有識者会議ができた。
 この有識者会議は13人の委員からなり、これまで12回の会合を開催。昨年8月には福島と東京で国民から意見を聴く公聴会を開いたが、「タンクでの長期保管を検討するべきだ」との意見が相次ぎ、「貯蔵を続ける」という選択肢も話し合うことになった。
 だが、会合は昨年12月28日を最後に開かれておらず、貯蔵継続の議論も棚上げにされたままだ。事務局の経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「委員の日程調整が難しい。貯蔵継続の議論を準備しているが、100%整ってはいない」と説明。有識者会議の議論の期限については「スケジュールありきではない」と述べるにとどめた。

袋小路

 「東電がどうしたいのかを言わないのは、事故の当事者としてあるべき姿ではない」。原子力規制委員会の更田豊志委員長は3月27日の記者会見で、東電の姿勢に不快感を示した。
 更田氏は「現実的な選択肢は希釈しての海洋放出」と繰り返し表明している。他の原発では、トリチウムの濃度を基準以下に薄めて海に流しているからだ。
 海洋放出は原子力関係者にとって「常識」だが、福島では通用しない。放射能汚染で一時は操業停止を余儀なくされた福島県の漁業関係者は、政府や東電が海洋放出を軸に検討していることに怒りをぶつける。
 福島の沿岸漁業は事故8年が過ぎても、水揚げ量は事故前の2割以下で、市場では安値が続く。「築城十年、落城一日」。県漁連の野崎哲会長は昨夏の公聴会で、海洋放出反対を強く訴えた。政府と東電が、タンク容量を理由に海洋放出を強行できる状況にはない。

トリチウムとは?

 放射能を帯びた水素で、酸素と結合してトリチウム水となる。普通の水と分離するのは難しく、福島第一原発の汚染水を浄化している多核種除去設備「ALPS(アルプス)」でも除去できない。放射線(ベータ線)は比較的弱く、人体に入っても大部分は排出される。放射能は12.3年で半減する。

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