<原発のない国へ すぐそばの未来5>小中学校に仮想発電所

 横浜市南区の高台にある市立六ツ川中学校。校舎屋上には太陽光発電の設備、1階にはスマートフォン1500台をフル充電できる能力の蓄電池がある。学校は災害時に周辺住民の避難所となるので、非常用の電源として頼もしい。それだけでなく、この学校の設備は意外な役割も担う。
 蓄電池につながった配電盤の上には小さなアンテナ。東芝エネルギーシステムズ(川崎市)が、インターネットを通じて充電と放電を制御するためだ。横浜市によると、同様の蓄電池が全市立小中学校の1割程度、47校にある。

分散電源を一つにまとめる

 夏場などに電力需要が高まると、蓄電池の出番だ。東京電力から「電力が足りないので協力を」と求められれば、まとめ役の東芝は非常時に備えた分を残しつつ、蓄電池から放電して学校で使う。これで東電への需要を減らす。放電した分は「発電」とみなされ、東電が東芝に代金を払う。
 この仕組みは「仮想発電所(バーチャルパワープラント=VPP)」と呼ばれる。発電機や蓄電池など各地に散らばっているモノ同士を、ネットを通して制御できるようになり実現した。東芝で開発を担当するエネルギーIoT推進部主幹、松澤茂雄さん(52)は「分散している蓄電池を、まとめて一つの発電所のように機能させることができるんですよ」と説明した。
 VPPは、電力需給を調整する新たな方法だ。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「VPPで需要調整できる量は、30年時点で1日の最大需要の6%、900万キロワット程度になる」と見込む。原発9基分に相当する電力需要を抑えられ、電力会社は火力のたき増しをせずにコストと温室効果ガスの削減にもつなげられる。

再生エネをためて使う

 再生可能エネルギーの電力を無駄にしない仕組みとしても、VPPは利用できる。夏場などとは逆に電力供給が需要を上回ると、余った電力を蓄電池にためられるからだ。
 電気は需給が一致している必要があり、バランスが崩れると、昨年9月の北海道地震で起きたような全域停電(ブラックアウト)につながる。電力会社は発電所の出力を調整し、需給バランスを維持している。
 太陽光や風力発電などは天候に左右されやすく、出力が調整しにくい。火力を抑えたり、昼間の余った電力を揚水発電所の水のくみ上げに使ったりしてバランスをうまく取っている。
 ただ、それも限界が近い。原発再稼働が進む九州では昨年10月以降、太陽光発電などの停止を余儀なくされる「出力制御」が10回以上あった。自然の恵みが無駄になってしまっている。

コスト安く、災害対策も

 ダムを造って揚水発電所を新設するのは時間と巨額がかかるが、蓄電池や電気自動車(EV)を束ねてVPPにすることは格段に費用が安く、簡単だ。
 経産省は16~20年度、140億円を超える補助金をVPPを進める企業に出す。横浜以外に仙台市や静岡市も導入し、災害対策に目を付けた自治体は前向きだ。学校や家庭など身近な場所が発電所になる日は、すぐそこまで来ている。 (小川慎一)

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