町民は帰ってくるのか 来春にも帰還宣言の楢葉町で本紙が意向調査

 東京電力福島第一原発から二十キロ圏内にある福島県楢葉(ならは)町。来春にも帰還宣言をしようとしているが、町民は戻ってくるのか。本紙は町内のある自治会を対象に、役員らの協力を得て住民の意向を調べた。既に四分の一が町外に新居を確保し、移住傾向が明らかになった。老夫婦だけが戻り、若い世代は新天地に移る世帯も多く、将来、地域社会を維持できるのか危ぶまれる。 (大野孝志)

4分の1の世帯が既に移住・移住の準備

 本紙は町東部のある自治会(六十世帯)を対象に、役員や地元の事情に詳しい住民ら三人の協力で、住宅地図を手に地域を回り、町外に新居を確保したかどうかなど、各世帯の動向を詳しく聞き取った。
 結果は図の通り。25%に当たる十五世帯がいわき市など町外に新たな家や土地を購入したり、そうした準備を進めたりしていた。
 また、次世代を担う人たちは町を離れ、家族が離ればなれになる傾向も見られた。茨城県に中古住宅を買った家では、高齢の母親だけが町に戻る。息子夫婦がいわき市に中古住宅を買い、その両親だけが町に戻るという家もあった。
 「戻る」と明言している家庭は20%の十二世帯にとどまった。
 方針未定や不明が二十六世帯あったが、幼児や小中学生を抱える世帯が多く含まれる。戻らないか親世帯と離れて暮らす選択に傾く可能性が高い。
 楢葉町など避難指示解除準備区域の人が、県内のほかの市町村に家を買って不動産取得税の軽減を受けた数は二〇一一年度の五件から、一三年度は六十六件に増加。一四年度も六月末までの三カ月で二十三件に上り、移住傾向の強まりを裏付けている。
 避難の実情に詳しい除本理史(よけもとまさふみ)・大阪市大教授(環境政策論)は「現状では、避難指示が解除されて帰るのは高齢者ばかりで、持続可能な地域社会ではなくなる」と懸念する。「国や東電は、急いで復興させればそれでいいとの短絡的な姿勢ではなく、避難した住民や地域に数十年や百年の単位で向き合うことが必要だ」と語った。

表札が外された家も少なくなかった=楢葉町で

子どもの教育、老後の生活に不安

 町外に家を買った人に理由を聞くと、放射能の心配より、むしろ子どもの教育や老後の生活への不安が大きな理由だった。
 「町が廃炉作業の拠点になったとしても、三十~四十年先も働く場所はあるだろうか。合併し自立した地域にしないと原発に頼った社会に戻ってしまう」
 いわき市に土地を買った三十代の男性会社員は、人口や税収の面で、町が成り立たないと考えている。
 五歳と三歳の子どもの教育環境も問題だ。学校や病院が整ったとしても、児童がとても少なくなる。「戻っても良いことはない」と判断したという。
 楢葉町と大熊町に自宅を持つ会社役員佐久間幸夫さん(60)は昨年六月、病院やスーパーに近いいわき市内の物件を四倍の抽選を経て買うことができた。
 妻(60)と介護が必要な義母(83)の三人家族。「人口がどれだけになるのか。店や病院はどうなるのか。年を取って車の運転ができなくなると、普段の買い物にも不自由するだろう」と考え、移住を決めた。
 貯金は底をついたが、仕事があるので家は買えた。「生まれ育った町に愛着はあるが、割り切って考えないと、踏ん切りがつかない」と語った。

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