「田起こし」地中をセシウム汚染 楢葉の農家 対策遅れ、苦悩 除染事実上不可能に

 東京電力福島第一原発事故で被災した福島の農家を苦しめているのが、二〇一一年秋から各地で実施された「田起こし」だ。国の除染が始まらず、荒れた農地を放っておけない農家は、放射性物質が降り積もった農地を耕した。その結果、汚染は表土から地中へと拡散した。カリウムをまき、農作物が放射性セシウムを吸収しにくくすれば、食品基準はほぼ満たせる。しかし、そんな農業のあり方に抵抗を感じる農家は少なくない。(山川剛史、大野孝志)

濃度は減っても、地中深くに拡散

 田畑に積もったセシウムの約九割は地表五センチまでにとどまっている-。このことは事故発生から間もないころから、いろいろな調査で分かっていた。
 汚れた土を除去すれば、農地から大半の放射性物質はなくなり、基本的には安心して農業が続けられるはずだった。
 だが、削り取った汚染土をどこに保管するかや、長年かけて改良してきた土を失う問題もあり、農地の対応は遅れに遅れた。
 日々雑草に覆われる農地の状況に、焦りを強めた農家は次々と田起こしを進めた。二〇一一年十一月に本紙が取材したところ、田起こしは福島第一原発の二十~三十キロ圏にある南相馬市や田村市、広野町、川内村など広い範囲で進んでいた。不用意な田起こしはセシウム汚染の長期化につながる。紙面や取材を通じ国や自治体、JAに問題提起したが、「深く耕せば、問題はないだろう」と危機感は薄かった。
 結局、国は農地の除染をする代わりに、深く耕して表土の放射性物質濃度を薄め、鉱物ゼオライトやセシウムと似た性質のカリウムを土にまぜ、作物がセシウムなどを吸い上げるのを抑える策を中心に据えた。
 農林水産省は、イネが急速に育つ六月までに農地一キログラム当たり一〇ミリグラム以上のカリウム成分が含まれるよう注意すれば、食品基準(一キログラム当たりセシウムが一〇〇ベクレル)を超えるようなコメはほぼ根絶できる-との報告書をまとめている。
 だが今回、本紙が楢葉町で実施した調査で確認された通り、表土付近に限られていたセシウムは、下の土とかきまぜられて濃度こそ低くなったものの、農地には少なからぬセシウムが含まれたまま。地中二十~三十センチまで汚染が広がった結果、もはや除染は事実上不可能になった。農業用水のため池やその水源地の森林にはもっと濃いセシウムがあり、これらが流れ込むリスクもある。

追加対策が必要

 独協医科大の木村真三准教授の話
 カリウムそのものも放射線を出すので、使用は慎重に考えるべきだ。除染ができなくなった田畑では、農作物の放射能濃度の測定・公表を繰り返し、消費者に安全性を納得してもらうしかない。ため池や田んぼの取水口にフィルターをつけたり、沢の水を直接引き込むような地域では、池を造って水の中の土砂やちりを沈殿させたりする追加的な対策が必要だ。

楢葉町のため池。この水からも0.4ベクレル/リットルのセシウムが検出された

(メモ)避難指示区域の現状

 年間被ばく線量が20ミリシーベルトを確実に下回り、インフラが復旧したことを条件に、国は避難指示区域の見直しを進めている。現在、福島第一原発20キロ圏を中心に10市町村に避難指示が出ている。4月には田村市都路地区で指示が解除されたが、全域的に避難した市町村の中では、楢葉町が初の解除、帰還宣言となる見込み。解除1年後、東京電力は賠償を打ち切る方針。

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