早野・宮崎論文、撤回は不可避? 福島・伊達市の住民被ばくデータ提供問題

 東京電力福島第一原発事故後、福島県伊達市住民の被ばく線量を分析した論文に本人の同意のないデータが使われた問題で、市や大学の調査が開始された。市が住民の同意を得ぬまま線量データを研究者に提供していただけでなく、線量の測定方法や分析手法に問題や誤りが指摘されている。(宮尾幹成、三輪喜人)

2016年に英学術誌に掲載された早野龍五氏と宮崎真氏による共著論文

データの4割「同意なし」

 問題の論文は東京大大学院の早野龍五(りゅうご)名誉教授(物理学)と福島県立医大の宮崎真(まこと)講師が共同執筆し、2017、17年に英学術誌に掲載。早野氏は原発事故後、ツイッターで放射能について積極的に発言してきたことでも知られる。
 分析したのは、伊達市が原発事故後の11~15年に市民の9割以上に当たる約58000人に線量計を配り、日常生活の被ばく線量を測定したデータ。市が県立医大に提供した。両氏の研究計画書には、研究利用の同意を得たデータのみを使うと明記していた。
 ところが昨年9月の市議会で、4割以上の約27000人から同意を得ていなかったことが判明した。

資料全て廃棄、検証できず

 なぜ同意のないデータが提供されたのか。市の担当者は「当時の職員が退職し、分からない」。提供データに同意の有無を確認できる情報が含まれていたかについても「資料が残っておらず、確認できない」と話す。一方で早野、宮崎両氏は「適切なデータを提供されたとの認識だった」とメールで本紙に回答したが、資料を全て破棄したとしており、検証できない。
 研究倫理に詳しい国立がん研究センター生命倫理・医事法研究部の田代志門部長は「研究者がデータを受け取る際、通常は同意の有無を確認するはずだ」と指摘する。「研究不正の有無が検証できるようにデータを長期保存する流れになっている。データ保存は、各研究機関でかなりうるさくなっている」と、両氏の対応に疑問を投げかける。

そもそも測定が不適切?

 早野氏らは同意を得たデータで再分析する意向を示しているが、それが実現しない場合は「論文撤回とならざるを得ない」とする。第三者委員会による検証の初会合を1月4日に開いた伊達市は、データの再提供に応じない方針。住民からの申し立てを受けた東大も本格調査を始めており、再分析ができる状況にない。
 データの再提供を受けたとしても、そもそも個人線量計による測定データ自体の信頼性にも疑問がある。線量計は、正しい着け方で常に持ち歩かないと正確なデータを測れない。
 本紙は13年12月、伊達市内では住民の多くが、線量計を自宅の玄関や居間の壁など屋内に放置しており、実際より格段に低い線量が測定されていると報じた。同市に住む女性は「線量計の使い方は教わらなかった。市の関係者以外で着けているのを見たことがない」と振り返る。
 また、早野氏と共同研究の経験がある黒川真一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授が「計算やグラフに間違いがあり、線量が過小評価されている」と批判し、論文掲載誌に問題点を説明した文書を投稿。他の専門家からも、誤りが指摘されている。
 早野氏は1月、ツイッターで論文内容に「重大な誤りがあった」として掲載誌に修正を申し入れたことを明らかにしたが、相次ぐ指摘には答えていない。

自宅の居間につるしっぱなしにされた家族4人の線量計。2013年12月の取材では、実際の被ばく線量を測定できていないケースが多くあった

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