改正原子力損賠法案 賠償へ備え増やさず スピード成立へ

 原発事故による損害賠償の仕組みを定めた原子力損害賠償法改正案の国会審議が急ピッチで進んでおり、来週中にも成立する。東京電力福島第一原発事故では被災者への賠償額が既に8兆円を超えているが、改正案は、電力会社に備えさせる賠償額の上限を現行の1200億円に据え置いた。市民団体は「福島の被害実態を踏まえていない」と抜本的な見直しを求めている。(宮尾幹成)

 政府の改正案は11月22日に衆院本会議で与党と国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決。審議時間は6時間15分だった。参院では11月29日に審議が始まり、早ければ12月5日にも成立する見通し。野党側は「早期見直し」を付帯決議で求める方向で検討している。
 現行制度では、原発ごとに1200億円を上限に電力会社に備えさせている。だが福島事故では、東電が支払う被災者への賠償金が既に8兆円以上。事前の備えを超えた分は、原発や関連施設を持つ電力会社11社が資金提供する原子力損害賠償・廃炉等支援機構が貸し付ける仕組みで補っている。その資金は2020年度以降に電力料金に上乗せされ、返済までの利子は税金で賄われるため、国民全体でカバーすることになる。
 現行の1200億円を引き上げるかどうかは、改正案策定前に政府の原子力委員会の専門部会で議論されたが、電力会社や保険業界との調整がつかずに見送られた。
 福島第一原発事故の賠償を巡っては、被災者の早期救済を目的とした裁判外紛争解決手続き(ADR)で、国の原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案を東電が拒否する例が相次ぎ、被災者が訴訟に踏み切らざるを得ない状況にある。
 市民団体などは、電力会社に和解案を受け入れる義務を課すよう求めているが、改正案には盛り込まれていない。
 脱原発を目指す「原子力市民委員会」の座長、大島堅一龍谷大教授(環境経済学)は11月29日、都内での集会で「被害者が司法にまで訴えなければならない事態を国は受け止めるべきだ。被害者救済に全く効果を持っていない」と改正案を強く批判した。
 他方で改正案は、福島事故で賠償開始が遅れた反省から、電力会社に賠償手続きの方針を事前に作成、公表させることを新たに義務付ける。電力会社の賠償責任に上限を設けない「無限責任」と、過失の有無に関係なく責任を負わせる「無過失責任」については、電力会社が見直しを求めていたが、維持する。

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