【対論】保有プルトニウムをどう減らす?

 米国が日本に、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理の「特権」を認めた日米原子力協定が三十年の満期を迎え、17日から自動延長に入った。これまでに日本がため込んだプルトニウムは、長崎型原爆6000発分に相当する47トンに上る。国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)するため、再処理を含む核燃料サイクル政策を見直すべきだとする松久保肇・原子力資料情報室事務局長(39)と、今ある原発を活用したプルトニウム削減計画を示すべきだとする武田悠・広島市立大講師(35)に考えを聞いた。 (伊藤弘喜、宮尾幹成)

核燃サイクルは撤退 原子力資料情報室事務局長の松久保肇さん

―自動延長の影響は。
「今後は日米のどちらかがその気になればいつでも協定を終了でき、河野太郎外相が評するように『不安定な状態』になった。原子力政策を変えやすい流動的な状況になったと前向きに捉えることもできる。日米両政府に脱原発を求める市民の声をさらに届けていくべきだ」

―米国はどう動くか。
「米国の国会議員に働き掛けるため訪米を重ねているが、共和党、民主党を問わず、日本の核燃料サイクルを問題視する見方が徐々に広がっている手応えがある。米国は核拡散のリスクがあり、経済性にも欠けるとして核燃料サイクルから1970年代に撤退した。日本の状況を説明すると『まだそんなことをやっているのか』という反応だ」
「核兵器につながる技術の拡散を恐れる米国は、『なぜ日本にはプルトニウム抽出を認めて、わが国には認めないのか』と他国に言われたくない。北朝鮮の非核化交渉への影響も懸念される。日本にプルトニウムの削減を一層、求めてくるだろう」

―日本はどうすれば。
「コストばかりかかるプルトニウムを生み出す核燃料サイクルから撤退すべきだ。多額のコストは私たちの電気料金に跳ね返ってくる。抽出したプルトニウムは核兵器にも転用できるため、他国から『日本は潜在的な核保有国だ』と言われ続けている。国内的にも国際的にも説明が付かない。英米はプルトニウムを使うことを諦め、処分する研究を始めた。こうした取り組みに日本も加わればいい」

松久保肇・原子力資料情報室事務局長

まつくぼ・はじめ

兵庫県生まれ。2003年国際基督教大卒、16年法政大大学院修士課程修了。金融機関勤務を経て12年から原子力資料情報室勤務。17年から事務局長。国際問題を担当。共著に「検証 福島第一原発事故」(七つ森書館)など。

原発を活用して消費 広島市立大講師の武田悠さん

―協定はいつでも破棄できる「不安定な状態」になったと言われる。
「合理的に考えて米国が破棄する動機はない。1988年の改定時と違い、中国やロシアという核不拡散規制が比較的緩い原子力供給国が現れ、不拡散上の問題がある国にも原子力技術を売っている。米国は日本に再処理を認める見返りに、さまざまな核不拡散規制の協力を取り付けており、米国にとって極めて得の多い協定だ。『無期限延長』と捉えた方がよい」

―それではなぜ米国からプルトニウム削減の要求が強まっているのか。
「米国には核不拡散を重視し、日本のプルトニウム利用に批判的な勢力もいる。日本では(プルトニウムを燃料に使う)高速増殖原型炉もんじゅの廃炉が決まった。日本政府は(通常の原発でプルトニウムを燃やす)プルサーマルを進める方針だが、すぐに大量のプルトニウムを消費するのは難しく、米国の核不拡散派を説得できていない。少なくとも今ある原発は、建設中のものも含めてプルトニウム消費のために活用するべきだ。だが3・11後の原子力政策の混乱もあり、長期的な計画を示せずにいる」

―プルトニウム保有が北朝鮮の非核化交渉に悪影響があるとの指摘もある。
「あまり説得力のある主張ではない。日本は日米協定による規制のほか、国際原子力機関(IAEA)の厳格な査察を受け入れ、プルトニウムに関する詳細な報告書を毎年公表している。核不拡散のために努力していると、もっと国際社会にアピールする必要はある」

武田悠・広島市立大講師

たけだ・ゆう

岡山県生まれ。2011年筑波大大学院博士課程修了。日本原子力研究開発機構、外務省外交史料館などを経て、18年から広島市立大講師。専門は日米外交史。著書に「日本の原子力外交 資源小国70年の苦闘」(中央公論新社)など。

日米原子力協定とは?

日本と米国で核燃料や原子炉など原子力関連の物資や技術を輸出入する際、軍事転用を防ぎ平和利用に限るよう取り決めた条約。1988年の改定で、日本は非核兵器保有国では例外的に再処理を自由に行える「包括事前同意」が与えられ、核燃料の再利用を目指す核燃料サイクル政策の基盤となっている。2018年7月16日に30年の満期を迎えたが、両国とも延長などの手続きを取らず、協定の規定に基づき自動延長。いずれかの国の事前通告でいつでも破棄できる状態になった。

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