【詳報】小泉元首相インタビュー 原発ゼロ、首相がリーダーシップ発揮すれば実現

 小泉純一郎元首相は本紙のインタビューで、「原発ゼロ」に政策転換できない背景には、多額の投資を無駄にしたくない心理があると指摘するとともに、首相がリーダーシップを発揮すれば実現できると強調した。

原発「安全、安い、クリーン」うそ

◇莫大
 -東京電力福島第一原発事故が起きた2011年3月11日、どこで何をしていたか。
 「自宅で新聞か本を読んでいた。大きい(地震だ)なと思ってテレビをつけた。これは大変だと。原発は安全と言われていたのに疑問に思って勉強し直した。原発推進論者が言っていた『日本の原発は安全』『コストは一番安い』『クリーンエネルギー』という三つの大義名分が、うそだと分かった」
 -全然安全ではない。
 「世界でただ一つ、フィンランドにある核のごみ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場の視察に行った。地震も火山も津波もない、岩盤でできた島にある。それでもフィンランドに4基ある原発のうち、2基分の容量しかない。地震も津波も火山もある日本じゃできないなと思った。処分場を見つけられない原発を政府が認めることが不思議で仕方ない」
 -低コスト、クリーンとも言えないか。
 「それも大うそ。他の電源より安いというのは、原子炉で核燃料を燃やして電気を供給するところだけのコスト。最終処分場を造るにも莫大(ばくだい)な金がかかる。今も福島の人たちは何万人も帰れない。クリーンエネルギーどころじゃない。なぜ推進論者の言うことを信じちゃったのか。だまされたのが悪いんだけど、過ちはやっぱり改めなきゃいけないと、(原発ゼロの)講演を始めた」

◇証明
 -顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)」が発表した原発ゼロ基本法案の骨子は、自然エネルギーに転換した方が経済成長もできるとした。
 「現実にゼロでやっていけているんだから、早く自然エネルギーを活用するために行動を起こした方がいい」
 -原発を所管する経済産業省は、太陽光や風力は不安定で、安定電源の原発は必要と主張している。
 「11年3月から7年間(原発はあまり稼働してこなかったのに)北海道から九州まで1日も(大きな)停電はない。原発ゼロでやっていけるのを証明しちゃったんだよ。原発を支援したお金を自然エネルギーに向ければ、10年たてば、原発が提供していた程度の電源は供給できる。将来、全電源は自然エネルギーでできると思う」
 -政府の新たなエネルギー基本計画は、引き続き原発を全電源の20~22%を担う重要な基幹電源と位置付ける見通しだ。
 「反省がない。将来も20%分の原発を維持しようなんて。いまだに経産省幹部は、原発(を持つ電力)会社に天下りしているから」

【フィンランドの最終処分場】

フィンランドは、岩盤地層でできた島の地下400メートルを超える地中に、原発の使用済み燃料を埋めて処分する計画を進めている。処分場は同国語で「オンカロ」(洞窟の意味)と呼ばれ、2020年から埋める作業を始める。放射線の影響が減るまで10万年以上かかるため国内にも安全を不安視する声がある。この他に最終処分場の建設予定地が決まっているのは、スウェーデン、フランスなど数カ国に限られる。

【原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)】

ばらばらに行われていた脱原発運動の全国的な連携を図るために発足した組織。城南信用金庫顧問の吉原毅氏(会長)、元首相の小泉純一郎氏(顧問)と細川護熙氏(同)らが主導する。原自連が今年1月に発表した原発ゼロ基本法案は①稼働中の原発の即時停止②原発の再稼働や新増設の禁止③電力に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに50%以上に高め、50年までに100%にする-などの方針を掲げる。

「既に投資」真珠湾攻撃と同じ

◇感情
 -安倍政権は、原発を積極的に輸出しようとしている。
 「どうかしている。危険性があって自分の国でだめだから、外国に売り込もうとしている。発想が分からんね」
 -小泉政権が手がけた道路公団民営化、郵政民営化は既得権益への挑戦という側面があった。原発ゼロも、原発利権にある政官財の癒着を壊す思いからか。
 「(郵政民営化などの)当時、反発はあったが、やればできちゃう。原発ゼロをやろうとしないのは、それだけ(既得権益が)根を張っているからだ」
 -原発政策を転換できないのは、政治のリーダーシップが足りないからか。
 「それが一番ある。同時に、投資をしているからね。撤退というのは難しい。これから(利益を)得るのに、既存の投資を無駄にしたくないから。真珠湾攻撃に突入したのと似ている。理論の裏付けより、そのときの感情でいっちゃう。日本人の精神構造って、どうしてこうなのかな」
 -政治のリーダーシップで打破できるのか。
 「真珠湾攻撃も、首相が一人でも軍部の圧力に抵抗すれば止められた。しかしみんな首相がぐらぐらしちゃう。似てるよ原発も」

【郵政民営化】

小泉政権が「改革の本丸」と位置付け、日本郵政公社を完全民営化した政策。小泉政権は2005年に民営化法案を提出したが、自民党議員の造反により参院で否決。当時の小泉首相は民営化の是非を問う形で衆院を解散。造反議員に対立候補を立てるなどし、自民党が圧勝。同年に民営化法は成立した。07年に郵政公社は民営化され、持ち株会社・日本郵政の下、郵便、窓口、郵貯、保険に4分社化した。

首相が不要と言えば実現する

◇雪崩
 -安倍晋三首相にはどう話しているか。
 「『だまされるなよ』『経産省の言うことは全部うそだ』って言っている」
 -反応は。
 「苦笑して、反応しない」
 -以前、記者会見で「今の安倍政権は無理だが、数年後に新首相が原発ゼロを打ち出せば原発ゼロは実現する」と指摘した。安倍首相ではやはり無理か。
 「ここまで(原発が)必要だ必要だと言ったらやめられない。(本来は)時の首相が言えば、雪崩のような現象で、原発ゼロに向かって国民も産業界も進む」
 -自民党で今できる人がいるとすれば。
 「河野太郎(外相)だよね。前から(原発ゼロと)言ってる。でも外相になっちゃった。今は『首相が推進しているから』という遠慮がある」
 -野党と連携する考えは。
 「自民党の首相が決断をすれば、野党は黙っていても喜んで協力する」

◇無駄
 -1兆円以上の国費を投じた高速増殖原型炉もんじゅは廃炉が決まった。
 「永遠の夢の原子炉と言われたもんじゅが、幻の原子炉になっちゃった。3人どころか、300人いようが3000人いようが専門家の『もんじゅの知恵』は出てこなかった。まさに無駄遣いだった」
 -潜在的な核抑止力を持つために、もんじゅの核燃料に使うプルトニウムを生み出す再処理を続けるべきだという意見がある。
 「なんで抑止力というのか分からない。日本が核兵器なんて持てるわけがない。そういうことを言う人の理論が分からない」
 -9月の自民党総裁選はどうなる。
 「分からない。一寸先は闇だ。誰が出てくるか分からないし、安倍さんがどうなるか分からない」
 -原発問題は争点にならないか。
 「なりにくいだろうな」

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