準備宿泊が始まった福島・大熊町 進む再開発 町民と行政に溝

 東京電力福島第一原発が立地し、全町避難が続く福島県大熊町の一部で、住民が夜間も自宅に滞在できる準備宿泊が4月から始まった。来春の避難指示解除に向けた動きだが、開始1週間で宿泊を申請したのは9世帯16人のみ。町を歩くと、放射能汚染や生活基盤への不安から「戻らない」と決めた多くの町民たちと、帰還を急ぐ行政との間に温度差を感じた。 (内田淳二)

「人いない、放射能心配。避難先の方が便利」

 雑草に覆われた田んぼを横目に、準備宿泊が始まった大熊町大川原(おおがわら)地区を歩くと、持参した線量計の警告音が突然鳴り出した。毎時0.5マイクロシーベルト。国が長期的な除染目標とする0.23マイクロシーベルトを大きく上回る。
 経営してきた建設会社の事務所に、昼間だけ来て掃除していた増子四郎さん(70)が淡々と話した。「戻るっていう人はほとんどいない。私もまだ様子見。準備宿泊が始まれば復興が進んでいると思うだろうけど、そうでもないんだ」
 県南東のいわき市に避難中。3人の子と7人の孫は事故後、県内外に散らばり、町に戻るつもりはないという。「若い人は放射能が心配だから。ここは人もいないし、店もない。避難先の方が便利」。いわき市内に家を買い、週一度は孫と会えるので「満足している」と笑う。
 原発に近い海側は放射線量の高い帰還困難区域で、準備宿泊の対象はもともと居住者が少ない、山側の139世帯379人。全町民の3%だけだ。すれ違う人はなく、大型ダンプが行き交う道の先には造成地が広がっていた。
 近くの現地事務所の町職員は造成地について「新しい役場や、スーパー、医療施設も造る。町民の要望が最も多い」と説明した。町は大川原地区を復興拠点と位置付け、67億円かけて新庁舎などを建てる。かつて町の中心で、今は放射線量が高くて入れないJR大野駅周辺も、将来的に人が住めるよう、国費を投じて除染を進める計画だ。
 事務所隣の町民休憩所に人影はなく、周りにいるのは建設作業員ばかり。復興庁の調査では「町に戻らない」という町民が6割を占める。帰還が前提の政策は、住民の思いと溝があるのでは…。そんなことを考えていると、線量計がまたピーピーと鳴り出した。

望郷…「やっと帰れた」 64歳男性、愛犬と自宅へ

 集落を回り、準備宿泊中の住民に、1人だけ出会った。避難先の福島県南相馬市から大川原地区の自宅に戻った井戸川清一さん(64)。窓の外を見つめながら「あの頂上からの眺めがいいんだ。町が一望できて。やっと帰ってこられた。やっぱり空気が違う」。
 家の前の山は幼い頃に遊んだ、なじみ深い場所。近所で町に戻る準備をする人はほとんどいない。自身も南相馬市に家を建てたが、故郷への思いはやまず、戻ることを決めた。半壊した自宅を昨夏、建て直した。
 一緒に避難した父は昨春、89歳で他界した。今は土木の仕事を引退し、愛犬マルコと「一人と一匹」の生活。隣の富岡町のショッピングモールまでは車で15分ほどで、食料品や日用品は事足りる。車を運転できるうちは暮らせる。
 「散歩中に会うのはイノシシばかり。でも、ここは避難先と違って、気兼ねなく普通の暮らしができっから、いいんだ」

6割が「町に戻らない」意向調査

 来春の避難指示解除を目指す福島県大熊町は4月24日から、居住制限区域の大川原地区と、避難指示解除準備区域の中屋敷地区で準備宿泊を始めた。両地区は先行して除染やインフラ整備を行ってきた。
 4月1日時点の住民登録者数は1万471人。県内への避難者は7931人で、県外は首都圏を中心に2540人。復興庁が今年1月に実施した住民意向調査(全5218世帯対象、回答率50.3%)では、町に「戻らない」は59.3%、「戻りたい」は12.5%、「まだ判断がつかない」は26.9%だった。

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