福島・浪江町の賠償増額、決裂 ADR 東電、和解案を拒否

 東京電力福島第一原発事故の慰謝料増額を求め、福島県浪江町の住民約一万五千人が申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)で、国の原子力損害賠償紛争解決センターは六日、和解の仲介手続きを打ち切ったと発表した。センターが示した慰謝料を全員一律に上乗せする和解案を、東電が受け入れなかった。
 町民の約七割が申し立てた大規模な手続きで、町が代理人になっていた。馬場有(たもつ)町長は「到底理解できない。避難者に寄り添うどころか突き放しているとしか思えず、残念な結果だ」とのコメントを発表した。今後、町民や議会の意見を聴き、対応を検討する。
 住民側は東電が国の指針に基づいて支払ってきた一人当たり月十万円の慰謝料を、月三十五万円にするよう求め、二〇一三年五月から順次、申し立てた。
 センターは一四年三月、現状の慰謝料に五万円を上乗せし、七十五歳以上の高齢者にはさらに三万円を上乗せする和解案を提示。町は受け入れたが、東電は「他の避難者との間で公平性を欠き、影響が大きい」と拒否し続けていた。センターは今年二月、放射線量が高い帰還困難区域では帰還の見通しが立っていないこと、東電が一四年一月にADRの和解案の尊重を表明していることなどを踏まえ、和解打ち切りは「不本意と言わざるを得ない」と踏み込み、東電に最終回答を求めていた。しかし、結果は変わらず、今月五日付で手続きの打ち切りを決めた。

長引く交渉 既に800人死去

 福島県浪江町と東電の和解手続きが打ち切りとなったのは、東電が慰謝料を増額する和解案の受け入れを四年間拒み続けたからだ。仲介役の原子力損害賠償紛争解決センターから異例の和解案受諾勧告書まで突き付けられたものの、他の賠償請求への影響の大きさから姿勢を崩すことはなかった。企業論理に縛られた対応はセンターさえもあきれさせた。
 浪江町が約一万五千人の町民の同意を得て、ADRを利用したのは、事故で全町避難を強いられ、町民が県内外にばらばらとなってしまい、手続きが煩雑な請求手続きを一挙に引き受けるためだった。同意した町民の数が、町の決断への支持を物語る。
 生活基盤をずたずたにされた住民が今後、増額分を求めるには、個人で同じ手続きをするか、裁判をするしかない。町が申し立てた二〇一三年五月以降、名前を連ねた町民八百人以上が亡くなった。町民の高齢化も進み、請求をあきらめる人が出てくる懸念がある。
 東電は福島第一原発事故の被災者の生活再建のため「三つの誓い」を掲げている。「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」「和解仲介案の尊重」。その誓いに立ち返り、順守する姿勢を貫くことこそ、事故を起こした東電の責任となる。 (小川慎一)

裁判外紛争解決手続き(ADR)とは?

福島第一原発事故の損害賠償で、訴訟を起こさず、東京電力に賠償請求する手続きの一つ。国の原子力損害賠償紛争解決センターに申し立て、受理されると、弁護士などの仲介委員が双方の主張を聞いて和解案を提示する。解決までの時間が比較的短く、手続きが簡便なのが特徴。

「避難者の苦しみなんて、東電は眼中にない」 浪江住民 ADR打ち切りに怒り

 「避難者の苦しみなんて眼中にない」-。六日、東京電力福島第一原発事故で避難生活を強いられた福島県浪江町の住民約一万五千人が申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)が打ち切られ、申し立てに加わった住民からは、和解案を拒否し続けた東電の対応に怒りの声が上がった。事故から七年あまり。住民の暮らしは今なお不安定だ。 (内田淳二、山本哲正、佐藤圭)

住民帰還が進まない浪江町。運動公園は荒れ、人の住まない家は傷みが目立つ

和解拒否「なぜ強気」

 浪江町の自宅で車の手入れの最中、打ち切りのニュースを聞いた赤間徹さん(55)は「東電はなぜそんなに強気なのか。どちらが被害者なのか分からない」と憤った。
 赤間さんは、第一原発で配管の溶接などの仕事に携わったことがあり、福島県郡山市に家族を残して町に戻った。帰還前は車で原発まで通っていた。国の紛争解決センターは、現状の月額一人十万円に一律五万円上乗せするなどの和解案を示していた。赤間さんは「慰謝料はもらっていたが往復のガソリン代に消えてしまった」と嘆く。
 帰還しても町にはスーパーもなく、生活は非常に不便。除染も十分とはいえず、被ばくも心配だ。赤間さんは「知り合いの何人かもいったんは帰還したが、あまりに不便なので避難先に戻った。そういう状況を東電や行政にもっと知ってもらいたい」と訴えた。

「加害者意識ない」

 福島市に避難している今野寿美雄さん(54)は「交通事故で加害者が賠償しないのと同じ。東電には加害者意識がない」と断じた。
 「五十をすぎて仕事もなく、貯金を崩しての暮らしは非常に苦しい」と漏らす。東電には和解案を受け入れてほしかった。「まともな賠償もないから慰謝料を求めている。これでは先が見えない」
 埼玉県内に避難している主婦(43)は中学生と大学生の子どもがいる。打ち切りには「行き詰まっていると知っていたから驚きはない」と話す一方、原発の再稼働を推進する国への不信感は募るばかりだ。「子どもの初期被ばくの不安は抜けず、それでも子どもたちは浪江に帰りたいと言ってる。第一原発は廃炉作業中なのに勝手に終わったことにしないでほしい」
 福島県大玉村に避難している今野秀則さん(70)は、浪江町民による集団訴訟の原告団長を務める。提訴に踏み切った理由の一つには、なかなか機能しないADRへのいら立ちがある。「東電が和解案を受け入れれば他の町にも波及しかねず、だから拒否し続けたのだろう。避難者の苦しみは眼中になく、企業の利益しか考えていない」

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