<連載>原発のない国へ 第1部(2018年3月11~17日)

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から七年となった。福島第一から放出された大量の放射性物質が今も福島県を中心に大きな影響を及ぼす中、全国各地で原発再稼働の動きが進む。しかし世界の多くの国は、すでに太陽光や風力など再生可能エネルギー中心へと大きく舵(かじ)を切っている。遅れていた日本国内でも脱原発・再生エネ導入は進むのか。「原発のない日」に向かう道を探る。まずは被災地・福島から-。

朝日を浴びて光る大規模太陽光発電所(メガソーラー)のパネル。右には除染で出た土などを詰めた大型土のうが積まれ、左奥には東京電力福島第一原発がかすかに見える=4日、福島県大熊町上空から、小型無人機(ドローン)で平野皓士朗撮影

①大熊町メガソーラー コメつくれぬなら電気つくる(3月11日朝刊1面)

 常磐自動車道を、東京から仙台へ。途中、全住民が避難している福島県大熊町に入ると、左右にソーラーパネルが広がる。その向こうに、太平洋に面した福島第一原発の排気筒を望む。
 「まさか電気をつくるなんてなあ。田んぼが荒れ放題になるぐらいなら、と思ってよ」。大規模太陽光発電所(メガソーラー)に農地を貸した、志賀紀郎(としお)さん(78)が語る。八代続く農家。コシヒカリを作っていた水田は原発事故で荒れ果てた後、生まれ変わった。
 東側十六ヘクタールは民間の合同会社が運営し、昨年十月に稼働を始めた。東京電力の原発の送電網を使っている。西側三・二ヘクタールは二〇一五年十二月に稼働。いずれも電気は東北電力に売り、利益の一部を県の復興事業や、町が計画するイチゴ栽培施設の運営に生かす。
 二つの発電所は、福島第一が立地する大熊町が事故後に誘致し、出資もしている。年間の発電総量は、一般家庭四千百世帯分。事故前の町のほぼ全世帯分の電力に相当する。
 いずれの敷地も、事故前は水田だった。避難指示が出た十二市町村がある浜通り地域には、放射能に汚染され、農業を営めなくなった土地が多い。そこにメガソーラーが二十三カ所集中している。今後さらに五、六カ所増える予定だ。
 福島県が事故後に掲げた計画では、二〇四〇年に太陽光などの再生可能エネルギーで、県内の電力需要を満たす能力を確保する。その中核を、原発事故で打撃を受けた浜通りが担っている。 (小川慎一)

ドローン映像でみる大熊町のメガソーラー(2018年2月撮影)

②太陽と相談して生活 オフグリッドへの挑戦(3月14日朝刊1面)

送電網に接続していない下沢嶽さん方(浜松市)

 浜松市中区に住む静岡文化芸術大教授の下沢嶽(たかし)さん(59)は、自宅の太陽光発電だけで電気を賄う生活を始めて3年目になる。電力会社の送電網に接続しない「オフグリッド」と呼ばれる形態だ。本当に実現可能なのか、不安はないのか。自宅を訪ねた。
 JR浜松駅から車で約20分。2015年7月に完成した下沢さん宅は、竹やぶの丘を背に立つ。南向きの大きな屋根に、12枚の太陽光パネル(出力2.9キロワット)。屋根全面を覆っているかと予想していたが、意外に小さい。
 「システムの難しいことは分かりません。家を新築するとき、設計士に相談したら、『オフグリッドはできる』と。妻も乗り気でやってみた」と下沢さん。
 太陽光パネルの数は必要最小限。高価な蓄電池は、電動フォークリフト用の中古バッテリーを探した。蓄電まで含め通常の半額程度でできたが、それでも約240万円かかった。
 夫婦と男児2人の4人家族で、一日平均の電気使用量は4キロワット時強と、一般家庭の三分の一程度。電力会社に払わなくて済む電気代(月2000円程度)で、費用を回収するのは現実的には無理だが、下沢さんは「何より電力会社と縁を切り、加担しないことに大きな意味がある」と語る。
 オフグリッドを考え始めたきっかけは、東京電力福島第一原発事故だった。「原発のリスクの異常な大きさを思い知った。そんなことを続けていていいのか。自分にも未来への責任があるから、できることは何かと考え始めたんです」
 冷蔵庫、テレビ、電気オーブン、炊飯器、掃除機、パソコン…一通りの家電はある。エアコンはないものの、家の断熱性と風の抜けやすい構造で、必要性を感じていない。
 リビング脇の壁に埋め込まれた表示器で、発電やバッテリーの状況を見て、どう過ごそうかと考える。妻の未希さん??は「例えば今は満充電で放電中。こんな時は、電気を使わないともったいない。オーブンで何か調理しようか、掃除機をかけようか。逆に日が陰り、バッテリーの電気を使うようになると、家事をやめようかな、と」。
 この2年半で停電は2回。1回目は16年10月の長雨時で計13時間。蓄電量低下が原因だった。2回目は17年の大型連休時でバッテリーの接続端子の緩みが原因と分かるまで4日間、ロウソクやオイルランプの明かりでしのいだ。
 下沢さんは「中古の蓄電池には不安も残る。安くていい蓄電池が出てきたら、買い替えを検討します」とオフグリッド生活を楽しみながら続けるつもりだ。「誰でもできるとは思わないが、太陽と相談しながらの生活は、気持ちがいい」 (山川剛史)

太陽光パネルで発電された電気は、この物置きを活用した配電・蓄電装置へ。バッテリーは電動フォークリフト用の中古を使っている
オフグリッドへの挑戦

③570戸 街丸ごと太陽光発電所 藤沢の大型分譲地(3月15日朝刊2面)

全戸に太陽光パネルを設置した大型分譲地=神奈川県藤沢市

 街が丸ごと太陽光発電所になっていた。都心から40㌔、神奈川県藤沢市の大型分譲地。藤沢駅から車で十分ほどの広大な敷地(19㌶)に、約570戸が立つ。全戸が太陽光パネルなどを備え、再生可能エネルギーで地域の需要を上回る電気を生み出している。
 南向きの屋根に太陽光パネルを載せた二階建ての住宅がずらりと並ぶ様は圧巻だ。歩道沿いにも太陽光パネルが並ぶ。電柱はなく、街並みはすっきり。電機大手パナソニックの工場跡地を関連会社のパナホーム(大阪)が再開発した。
 太陽光発電と蓄電池のほか、ガスを使った燃料電池を装備している家も多い。価格は周辺相場よりも500万円ほど高め。東京から移り住んだ後藤貴昌(たかまさ)さん(62)は2014年に買った。購入の決断には、東京電力福島第一原発事故が大きく影響したという。
 「原発に依存しない安全な電力源の確保を、最も重視しました」
 蓄電池があるので、短期間なら停電知らず。消費量を上回る発電が見込める。後藤さん方では、太陽光で発電して蓄電池にため、燃料電池も活用する。使い切れずに電力会社の送電網に流して売却した電気は、1月だけで395キロワット時。初期投資は必要だが、結果的には財布にも優しい。
 分譲地全体でみると、直近の16年度は太陽光で計182万キロワット時を発電し、利用量は計152万キロワット時。年間の電気収支は30万キロワット時のプラスだ。蓄電池の容量に限りがあるため、電力会社の電気も使ってはいるが、一般家庭(月当たり約250キロワット時)100世帯分の電気を生み出している。
 しかも、歩道沿いの太陽光パネルでの発電分は普段は売電し、利益を共用施設の運営費に。災害時には分譲地だけではなく、周辺の住宅の非常用電源にもなる。敷地内の病院や集会所も自前で発電している。
 大手住宅メーカーはこぞって発電機能付き住宅に力を入れ、分譲地の中心的な仕様にしている。藤沢ほど大規模ではないものの、千葉県浦安市や滋賀県草津市など、各地で「エネルギーの地産地消」を模索する動きが出ている。
 経済産業省によると、太陽光発電(10キロワット未満)で余った電気を電力会社に売る契約を結んでいる家庭は、17七年度末で約105万軒。全国で50軒に1軒は電気を自ら作っている。
 国は、20年までに新築の注文戸建ての過半数で、エネルギーを自給自足できるようにする目標を掲げる。30年には、マンションを含めた新築住宅全体で、計算上はエネルギーを自給自足することを目指す。この通り進めば、電力会社への依存は減り、市民の力が脱原発を後押しすることになる。(宮尾幹成)

地域まるごと太陽光発電所

④再生エネ化でアップルの受注直結

イビデンの工場内の池に浮かぶ日本最大級のフロート式太陽光発電所=愛知県高浜市で、本社ヘリ「あさづる」から

 スマートフォンのiPhone(アイフォーン)で世界的に知られる米アップル。そのホームページに昨年三月、岐阜県大垣市の電子部品会社イビデンの名前が掲載された。
 「アップル向け部品の生産を、すべて再生可能エネルギーにすると約束した、初めての日本企業です」
 「再生エネ100%で部品を生産できないか」。iPhone向けに電子回路などを製造していた同社に、アップルからアンケートが届いたのは二〇一六年。「すぐできます」と返信すると、アップルは「ビッグサプライズ!(驚いた!)」と反応した。
 イビデンには自信があった。一九一二(大正元)年の創業当初は、揖斐(いび)川で水力発電所を建設・運営する「揖斐川電力」だった。現在も水力発電所のほか、加工用木材をためていた愛知県高浜市の池に太陽光パネルを浮かべ、国内最大級の水上フロート式にするなど、二十一カ所の太陽光発電所を運営している。アップル向けの生産に必要な電力は確保できる。
 アップルが「地球環境の悪化を食い止めたい」と再生エネを重視し始めたのは、二〇〇〇年代に入ってから。欧米を中心に、環境に悪影響を与える製品の購入を避ける、消費者の意識の高まりが背景にある。
 まず、本社や各国の「アップルストア」など自社の施設で使う電力を、すべて再生エネにする目標を掲げた。各国で再生エネ専門の小売会社と契約したほか、資金を拠出して再生エネの発電所を設置。米国や中国など二十四カ国で再生エネ100%を実現し、一六年時点では世界全体で96%にまで高めた。
 「残り4%の大部分は、再生エネの価格が高く、制度も遅れた日本だった」(国内のアップル関係者)。昨年九月、ビル屋上を活用した都市型太陽光発電を手掛ける第二電力(大阪)と提携。日本に三百四カ所、一万七千キロワット分の太陽光発電所を造り、年内にも国内で100%再生エネとなる。
 同時に力を入れたのが、iPhoneなど製品生産工程の再生エネ化。世界に広がる部品生産企業にも、再生エネの活用を求めている。納入している会社の関係者は「協力できる企業は、受注面で優遇される可能性がある」と明かす。再生エネ化は、業績に直結する課題となっている。
 アップルなど再生エネ100%経営を目指す企業は「RE(アールイー)100」というグループをつくっている。米マイクロソフトや独BMWなど百二十八社が加盟し、毎年、進捗(しんちょく)率を報告し合う。メンバーの米小売りウォルマートもアップル同様、商品の納入元に再生エネ活用を求める。
 「ビールから車まで、消費者が再生エネ使用の環境に優しい商品を選ぶ傾向は、世界的に加速する」と、米国ロッキーマウンテン研究所のリリー・ドンジ主幹。再生エネへの取り組み方によって企業が選別される時代が、もう始まっている。 (吉田通夫)

<RE100> 「Renewable Energy(再生可能エネルギー)100%」の略。再生エネだけでの経営を目指す企業でつくるグループ。英国の非政府組織(NGO)が2014年に立ち上げた。加盟社は再生エネ100%の目標達成時期を定め、毎年、進捗状況を報告する。日本では積水ハウス、リコー、アスクル、大和ハウス工業の4社が加盟。RE100のサイトに名前が掲載され、社会的責任を積極的に果たす企業としてPRできる効果もある。

⑤太陽光電力を揚水発電所で”蓄電” 対応急変の電力各社

余った太陽光発電による電気を水の形で蓄える小丸川発電所

 車一台が通れるだけの曲がりくねった細い道を、標高約800メートルの山頂近くまで上ると、フェンスで囲われた貯水池があった。風の音と鳥の声しか聞こえない。宮崎県木城(きじょう)町の山あいにある、九州電力の小丸(おまる)川揚水発電所。満々とたたえた水は、東京ドーム4.55杯分もあり、太陽光発電で生まれた電気を有効活用するための「蓄電池」として使われている。
 貯水池から標高を約650十メートル下ると、もう一つのダムがある。外からは見えないが、両ダムは長さ2.8キロの地下放水路で結ばれている。上のダムから放水して水路の途中にある発電機を回し、120万キロワットの出力で7時間運転できる。
 揚水発電は、標高差のある二つのダムで構成する。余った電気でポンプを動かし、下のダムから上のダムに水をくみ上げる。電気が足りない時には上のダムから放水し、水の力でタービンを回して発電する。従来は原発などで余った電気を使って夜間に水をくみ上げ、昼のピーク時に補助的に発電する使い方がほとんどだった。
 だがここ一、二年、太陽光発電の伸びを受けて、使い方が一変。ほぼ昼夜逆転した。
 揚水発電所を持つ電力会社は日中、太陽光発電でだぶついた電気で、水をくみ上げておく。日が傾いて太陽光が減ると、放水して発電。消費量の多い夕方の電力をまかなう。
 太陽光発電や風力発電は自然をエネルギー源とするだけに、安定性に欠けるのが弱点だ。再生可能エネルギーが増えるほど、電力が不安定になると批判されてきた。しかし最近では、電力会社が揚水発電所に積極的に電気を蓄えることで調整し、不安定さが小さくなりつつある。
 特に九州は日照時間が長く、地価も比較的安いこともあり、全国の太陽光発電の二割が集中。需要が少ない時期なら、九電管内の電気を、太陽光ですべてまかなえるほどの能力がある。その電気を、九電は三カ所の揚水発電所に蓄えている。計230万キロワットの揚水発電所の総出力は、同社の川内(せんだい)原発(計178万キロワット)を上回る。
 九電によると、揚水発電で日中に上のダムに水をくみ上げた回数は、2016年度は969回。わずか26回だった10年度に比べ、37倍に急増した。17年度は今年2月末現在で、既に1107回に上っており、過去最多を更新する。
 こうした状況について、都留文科大の高橋洋教授(エネルギー政策論)が語る。「再生エネの発電量の変動に対応するには、揚水や火力などをうまく運用することが重要で、九電は頑張っている。電力会社の柔軟な運用次第で、再生エネが伸びることを示している」(伊藤弘喜)=おわり

満々と水を貯える小丸川発電所の上部ダム

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