特集/川内原発 程遠い「合格」

検証ないまま、規制委近く新基準「適合」判断

 原子力規制委員会は近く、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)は新規制基準を満たしているとの判断(審査結果案)を示す。今後、意見募集(パブリックコメント)を経て、地元の同意が得られれば再稼働となる公算が大きい。重大事故の影響を緩和する設備を義務づけるなど原発内の対策は強化された。ただ、原発周辺の防災対策は紙の上にとどまっている面が多い。

多少は安全対策強化したが、収束作業、住民避難、火山…リスク山積

 全国十二原発十九基の審査申請が出る中で、新基準適合の初のケースとなりそうな川内原発。電源の多重化や注水設備などは改善された。津波の想定も見直され、海水ポンプを津波から守る壁も設置された。
 ただし、事故時に作業員を放射能から守る作業拠点は整備に時間がかかるため当面は代替施設でしのぐことに。狭く、水道もなく、作業員の除染もままならない簡易の施設だが、規制委は問題なしとした。
 川内の最大の論点は周辺に火山が多く、五十キロ南東には桜島を含む姶良(あいら)カルデラと呼ばれる巨大火山がある点だ。審査は「当面は破局的な大噴火はない」との想定で進行。九電は、監視を強化すれば火砕流などに巻き込まれる前に原発の安全確保ができると主張して認められた。しかし、火山の専門家は予知は難しいとしている。
 また、航空機突入などテロ対策の審査は非公開だった。規制委は「適切に審査した」というが、どこまで検証されたかは不明だ。
 一方、いざ重大事故が起きれば最も大きな打撃を受けるのが原発周辺の住民たちだ。原発三十キロ圏は重点的に防災対策が練られるが、規制委の仕事は避難基準などの指針をつくるまで。その後の対応は自治体任せになっている。計画をだれも検証しない。
 鹿児島県の計画では、津波で壊れる可能性のある海沿いの道路や山あいの狭い国道を使い、基本的には自家用車で避難することになっている。五~三十キロ圏は屋内退避し、五キロ圏の住民を先に逃がす-が原則だが、きちんと説明を受けた住民がわずかで、理解が得られているとは言い難い。
 県の試算では、住民が圏外への脱出をほぼ終えるまで最大二十九時間かかる、との結果が出ている。指定の避難所が汚染された場合の代替策も未検討だ。
 「新規制基準と地域防災は車の両輪」。規制委の田中俊一委員長はこう明言したが、結局、チェックされる輪は片方だけ。もし、川内原発で重大事故が起きれば、もう一方が脱輪し、福島のような大混乱が再来する可能性が高い。

◇兆単位ツケは国民に

 原発がある以上、重大事故が起きるリスクは消えない。ひとたび重大事故が起きたら兆円単位の損害が発生し、国内最大の東京電力でさえ、巨額の損害を抱えきれず、国から資金支援がなければ経営破綻に直面する。それが福島第一原発事故から得た教訓だ。
 企業規模が東電の三分の一にも満たない九州電力で重大事故が起きたら、どうなるか。現状、国は東電への支援で手いっぱい。九電だけで被害者への賠償や事故収束作業にきちんと対応できそうもない。
 巨額の損害への備えは原発を動かそうとする者の最低限の責務だが、現在は一千二百億円の保険金のみ。政府は米国などが加盟する国際条約に入り、備えの一助とする考えだが、得られる支援はわずか七十億円。備えは圧倒的に足りず、国民の電気料金や税金にツケが回されることになる。
 政府は今年六月、ようやく賠償の拡充に向けた議論を始めたが、具体化にはほど遠い。国会も二〇一二年八月までに原賠法を抜本的に見直すと約束したのに、ほぼ二年が過ぎている。

◇相互供給で乗り切れる

 九州電力は発電の多くを原発に依存する経営を続けてきたため、「原発が動かないと電力が足りない」と訴えてきた。だが、最近の二年間は、余裕のある電力会社から電力を融通してもらい、ピークの夏場を「原発稼働ゼロ」で乗り切ってきた。
 今年は東日本大震災後初めて全国で原発稼働ゼロの夏となる。引き続き企業や家庭の節電や火力発電所の維持管理努力は欠かせないが、融通で電力不足は回避できそうだ。
 沖縄を除くすべての地域は送電網でつながっている。九電は自社の供給に不安があるときは東京電力や中部電力など四電力会社から電気を送ってもらえる。その気になれば、まだ送っていない東北や北海道、四国の三電力からも電気をもらえる余地も残っている。
 課題は、東電と中電のエリアを境に東西で周波数が異なり、東電から西に電気を送るには装置で周波数を変換する必要がある。現在は一度に送れる上限は百二十万キロワットまで。これを六年後には二百十万キロワットへ増やす計画があり、完了すれば全国で電力を補う仕組みはさらに強くなる。

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