特集/国会事故調報告書から  官邸の顔色うかがう東電本店 いらつく吉田所長「もう分かって」

 五日に公表された国会の事故調査委員会(黒川清委員長)の報告書には、東電本店と現場を結んだテレビ会議のやりとりや、吉田昌郎(まさお)所長(当時)への聞き取り、二千四百十五人の作業員から集めたアンケートなどが収められていた。事故の場面がよく伝わってくる部分を特集した。

本店、むしろ現場の足を引っ張る

 「東京電力福島第一原発事故は終わっていない」。この言葉で始まる報告書の中で、有力な新情報がテレビ会議のやりとりだ。東電が残していた録画を、事故調メンバーが視聴し書き取った一部だ。東電は「プライバシーの問題がある」と公表しない。そんな中、現場の息づかいが感じられる貴重な資料だ。
 例えば、2、3号機に危機が迫ってきた昨年三月十四日未明の場面。まずは3号機に注力したい吉田所長に対し、東電本店からは「2号機原子炉の減圧はいつになるのか」の質問が何度も飛ぶ。
 経済産業省原子力安全・保安院からの要求を本店が取り次いでいるが、本店は国の顔色をうかがい、現場の苦闘を理解しない。たまらず吉田所長は「もう分かって。何回説明してもあれなんだけど」といら立ちをあらわにした。本店は技術的、人的に現場を支援すべきだったのに、むしろ現場の足を引っ張っていた状況がよく分かる。
 吉田所長への聴取記録も一部は、生の言葉のまま掲載された。東電幹部への怒りがにじんでいた。
 事故に対応した東電や下請け企業の作業員へのアンケートでは、恐怖、情報不足への不満などが切々とつづられていた。
 報告書は、国会事故調のホームページ(http://naiic.go.jp)でもダウンロードして読むことができる。

「もし…ならば」幅広く検証 もし東電以外で事故が起きていたら…

 平日や干潮、好天など福島第一原発事故は、事故対応に有利な条件がいくつも重なっていた。国会事故調は、いくつかの「もし…」を設け、幅広く検証する大切さを訴えた。
 一つ目は、東電以外の原発で起きたとしたらどうか。国会事故調は、総資産も社員も東電の十分の一程度の北陸電力や日本原電を挙げ「自力での完遂が頓挫する可能性さえ現実的」と指摘した。
 原発の近くに新幹線や高速道路などがあれば交通は大混乱。離島から島民は本当に避難できるのか-。原発の立地条件にも目を向けて備えを検証する必要があるとした。

もし米国並みの基準だったら…、免震重要棟がなかったら…

 二つ目は、米国の新しい安全基準が、日本にも適用されていたらどうだったか。
 テロなどで航空機が原発に突っ込み、通常の冷却機能が失われても、離れた場所にある耐火仕様のポンプ室から高圧で注水し、冷却を維持できるよう定めている。
 報告書は、こんな備えがあったら「(福島事故では)対応がかなり好転していた」と分析。海外の先進的な取り組みを取り入れようとしなかった経済産業省原子力安全・保安院などを批判した。
 三つ目は、原発内に作業員の最前線基地となる免震施設がなかったらどうか。
 福島第一の免震施設は「比較的良好な環境下で、食事や休憩を取ることができた」と評価。ただ、放射能対策の不備や、原発から電源が独立していなかった問題も指摘した。
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 この特集は、山川剛史、加藤裕治、片山夏子、宮尾幹成、森本智之、福田真悟、志村彰太が担当しました。原発内の写真は、東電提供。肩書はいずれも当時。

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