「規制委判断は科学的根拠に基づいていない」 川内新基準適合 噴火予知連会長が批判 

 原子力規制委員会は十日、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)が新しい規制基準を満たしているとの審査結果を正式に決めた。再稼働に向けた動きがまた一歩強まった。規制委に火山に関して助言してきた火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣(としつぐ)・東大名誉教授(67)=写真=は本紙の取材に「火山リスクが低いとの規制委の判断は科学的根拠に基づいていない」と、審査のあり方への疑問を投げかけた。(小倉貞俊)

火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣(としつぐ)・東大名誉教授

「規制委には火山の専門家いない。火山を甘く考えた」

 川内原発が他の原発と大きく異なるのは、火山の巨大噴火に見舞われる可能性を抱えていることだ。周辺には巨大噴火による陥没地帯(カルデラ)が五カ所あり、四十キロ先の姶良(あいら)カルデラで三万年前に起きた噴火では火砕流が原発敷地内に到達した可能性がある。
 そんな場所に原発が立地していいのかという疑問があるのに、規制委は七月、巨大噴火は予知でき、対処も可能という九電の主張を受け入れ、川内原発に「合格」の判断を下した。
 ところが、八月に始まった火山の専門家による会合では、専門家でも困難な火山活動の判定を電力会社ができるのかとの意見が噴出。規制委の姿勢や能力を疑問視する声が相次いだ。
 専門家会合の一員でもある藤井氏は「規制委には火山の専門家がいないのに、火山対策の審査基準となるガイドライン(昨年六月に完成)をまとめる段階から、専門家の意見を十分に聞いてこなかった。火山の影響を甘く考え、状況を見誤ったのでは」と指摘する。

規制委と火山の専門家 こんなに認識が違っている

「今のレベルでは、通常の火山噴火の予知もせいぜい数日前前まで」

 会合で浮かび上がった専門家と規制委の認識のずれは図表の通りだ。
 規制委は「原発の稼働期間中に、巨大噴火が起きることはないだろう」(田中俊一委員長)と推測。九電から、衛星利用測位システム(GPS)で火山周辺の地面の動きなどを監視し、危険と分かれば、原発を止めて核燃料を安全な場所へ緊急搬出する-との回答を引き出し「それでよし」と認めた。
 だが、藤井氏は「巨大噴火は過去にわずかな例しかなく、噴火時期の予測に必要なデータも技術もない。事前の予知も今のレベルでは、通常の火山ですら、せいぜい数時間から数日前までしかできない」と話す。姶良カルデラなど海底部分が多い火山帯では、常時観測できない部分が多く、予知はさらに難しくなる。
 九電や規制委は「カルデラ噴火直前の百年程度の間に、急激にマグマがたまっていく」というフランスの研究者の論文を頼りに「予知可能」としているが、藤井氏はその判断は危険だと語る。
 「論文の著者にもメールで確認したが、『あくまでもギリシャの一火山での研究結果であり、ほかの場所に当てはめられない』と困惑していた」
 規制委は、火山の専門家から数々の疑問を突きつけられながら、その声を十分に聞かず「合格」の判断を変えようとはしなかった。
 藤井氏は「とても不思議だ。原発推進側の圧力もあり、ここまで進んだ審査をいまさら無駄にしたくないのでは」と指摘。「規制委が『科学技術に基づいて判断した』と言うのは心外だ」とも話した。
 再稼働を急ぐ政府にも「再稼働させたいなら、科学ではなく、あくまで自分たちの都合で判断したことを明確にするべきだ。『科学的に安全が証明された』と主張するなら、また安全神話をつくり出すことになる」と警鐘を鳴らす。

(メモ)カルデラ

 噴火でできた大きな陥没火口。九州や北海道など各地に点在し、国内では1万年に1回程度、「破局的噴火」とも呼ばれる巨大噴火を起こしている。大量の火山灰を降らせ、火砕流の被害は半径100キロ以上に及ぶことがある。最新の巨大噴火は鹿児島県沖の鬼界カルデラの7300年前。噴火の被害で南九州の縄文文化が途絶えたとされる。

川内原発



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