線量計隠し現場へ 実態暴けぬ厚労省調査 福島元作業員新証言

 東京電力福島第一原発で起きた、線量計を鉛カバーで覆って被ばく線量をごまかした問題を受け、厚生労働省が実施してきた聞き取り調査の結果が三十日、公表された。意図的なごまかしはなかったとの内容。だが、本紙の取材に対し、元作業員の男性は、原発で働き続けるため線量計を持たずに現場に行っていたことを新たに証言した。既に、鉛カバーを作って線量をごまかそうとした別の作業員の実例も報じたが、二人とも聞き取りはされていない。

「倉庫の缶の中に線量計を隠した」

 新たに線量ごまかしの実態を語ったのは、福島県いわき市の二十代男性。事故発生間もない昨年四月から福島第一の緊急作業に加わった。現在は被ばく線量の問題などで解雇され、現場を離れた。
 当初に担当した収束作業は、3号機タービン建屋内で、放射線量が不明の汚染水を手作業で捨てたり、大型の工作機を分解したり、海側で配管を修繕したりする内容。どの現場も線量は高く、たった一日で一般の人が許される数年分の放射線を浴びる日が相次いだ。
 これでは「五年間で一〇〇ミリシーベルト」(年平均で二〇ミリシーベルト)という作業員の被ばく線量限度をあっという間に使い果たし、働けなくなってしまう。男性は、線量の低い場所での作業に変えてくれと所属会社に頼んだが、聞き入れられなかった。
 そこで、男性は原発敷地内にある所属会社倉庫の缶の中に線量計を隠したままで作業にいくことを思いついた。同じことをした同僚もいた。男性は自分用に被ばく線量を記録しており、線量計を隠した日は「-」印を付けていた。
 男性の記録を見ると、昨年四月からの五カ月間で、線量計を隠したまま作業したのは約二十回に上った。被ばく線量が高そうな作業で線量をごまかすと発覚するため、低そうな作業を狙った。
 それでも、男性の被ばく線量は五カ月で四〇ミリシーベルトを超えた。「線量の高い作業ばかりやらせておいて、線量が増えたといきなり解雇された。解雇か線量隠しかを迫られているようなもので、被ばく隠しをするしかなかった」と語った。
 一方、同様の動機で鉛カバーを自作していたベテラン作業員は「仕事を失わないため、必死だった。分からないよう慎重にやっていた。厚労省のような聞き取り調査では、実態はなかなか分からない」と話した。
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「意図的不正なし」 不適切事例は19件
 厚生労働省が、東京電力福島第一原発の作業員による被ばく線量ごまかしの実態を調べたところ、見つかったのは線量データの誤記など十九件の不適切なケースだけで、意図的な事例は見つけられなかった。行政による調査の限界が明らかになった。
 調査は昨年十一月から今年六月の間、一カ月間で五ミリシーベルト超の被ばくをした延べ千八百人の事例を抽出。一日の被ばく線量を把握する警報付き線量計(APD)と、月ごとの線量を測る積算線量計(ガラスバッジ)の累積値が25%以上違う二十八人に聞き取りをした。
 その結果、ガラスバッジのデータの誤りが二人。うち一人は今年二月に六・八ミリシーベルトの被ばくをしたが、元請けが二・八ミリシーベルトと記録したといい、「データをコンピューターに入力する際に間違えた」と説明したという。ガラスバッジを着けたまま、警戒区域内で汚染された車両で通勤したり、警戒区域内の採石場で働いた人もいた。
 一日あたりの被ばく線量が、予想より低かった一万七千人も調べたが意図的な不正は見つからなかった。
 担当者は「悪質な事例を申し出れば、法令違反に問われる可能性もある。行政の調査で掘り起こすのは正直難しい」と話した。

線量超えれば仕事失う 「正直に話せるはずない」 追い込まれる作業員 

 東京電力福島第一原発で起きた被ばく線量隠しの実態に迫ろうとした厚生労働省の聞き取り調査は、意図的なごまかしは見つけられず、調査の限界を露呈した。作業員たちからは「被ばく線量を隠す背景に、線量が増えると仕事を失う危機感があることを考えてほしい」と根本的な改善を訴える声が出ている。(片山夏子、橋本誠)
 新たな被ばく線量隠しを語った二十代の元作業員の男性は事故発生当初、タービン建屋内にたまった水の処理に追われた。たった五、六時間の作業で、一般の人が許される数年分の被ばく線量に達した。
 このペースで被ばくし続けると、一年もしないうちに、残り四年あまりは原発の仕事ができなくなる。男性は線量隠しへと追い込まれた。
 厚労省の調査では、同様の作業内容のグループ内なのに、被ばく線量に大きな違いがあるケースや、作業員が持つ二種類の線量計の値の差が大きいケースを洗い出し、聞き取りを実施した。
 しかし、男性はごまかしをするときは線量計を二つとも倉庫内に隠し、「周りの人と被ばく線量の差が大きいとばれてしまう。高線量の作業のときにはできなかった」と、慎重に行っていたとも語った。男性は厚労省から呼び出されず、「今回の調査では私のことは分からなかったと思う」と話した。
 線量計を覆う鉛カバーを作った作業員も呼ばれなかった。「呼び出されれば、どう答えるか会社で事前に打ち合わせる。仕事を失う不安から切羽詰まって線量をごまかしたのに、その本人が正直に話せるはずがない」と調査の限界を指摘した。
 一方、厚労省は、聞き取りをした下請け会社では、特定の人に被ばく線量が集中しないよう、作業内容や現場に配慮していると結論づけた。だが、実態は大きく異なる。
 線量計を倉庫に隠した男性は、被ばくの少ない作業への配置換えを何度も所属する会社に希望したが、そのたびに上司から「仕事がない」と言われた。そうこうする間に、男性は五カ月間で四〇ミリシーベルト超も被ばくした。
 男性は線量オーバーで次の仕事の保証もなく解雇された。その際、上司から言われた言葉が忘れられない。
 「仕方がないじゃないか。こうなっちゃったんだから」
 初期の収束作業で五〇ミリシーベルト超の被ばくをしたベテラン作業員もこの秋、所属する会社が仕事を取れずに解雇された。
 「大きな会社は仕事のローテーションができるが、小さい会社はできない。作業員は使い捨てになっているのが現状。実態調査もいいが、国は低線量の仕事や他の現場を確保して、ローテーションができる体制を整えてほしい」と訴えた。

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