エネ庁の事業 あきれた報道監視 美味しんぼ原作者「税金使って愚行」

 謎に包まれていたメディア監視事業の実態が、明らかになった。経済産業省資源エネルギー庁(エネ庁)の建前は「誤った報道の是正」。その裏側で、実際には委託業者を通じて幅広く反原発報道を集めていた。情報公開請求で開示された報告書には、感情的な中傷の言葉が並び、反原発の動きに神経をとがらせる本音が見える。(森本智之、加藤裕治)

監視対象は新聞のほか漫画も

 「あきれた。これでは批判のための批判ではないか」。南日本新聞の大野弘人論説副委員長は、自らの社説への言いがかりに驚く。
 大野氏は二〇〇九年九月三十日の社説で、原発推進の姿勢を明らかにした小沢鋭仁環境相(当時)を批判。推進をうたうより前に、民主党政権が公約で示した安全確保の確立と国民への丁寧な説明をするよう求めた。
 しかし、報告書は環境相の姿勢を「当たり前のこと」と肯定した上で、記事を「幼稚な社説」などと一方的に非難。記事の誤りをチェックするという本来の目的を逸脱し、社説の主張自体にクレームを付けた。
 大野氏は「報告書からは、周辺住民らが根強く持つ原発への不安に応えようとする姿勢が見えない。行政機関は、報道から施策の問題点を探って前向きに生かすものだと思っていた」と嘆く。「この社説を書いた後、現実に原発事故が起きた。残念です」
 新聞のコラムも標的になった。東京電力柏崎刈羽原発7号機で〇九年、燃料棒から放射性物質が漏れるトラブルがあり、新潟日報の同年十二月十六日の記者コラムは、新潟県の泉田裕彦知事の要請に応じて運転を停止した経緯を振り返った。
 これに対し、報告書は「あたかも東電は不正な運転をして、知事の注意で運転停止したような書きぶりである。実際は知事の横車にやむなく応じたのが真相だ」と書き立てた。
 このほか、現在の原子力行政に批判的な識者らが記事に登場すると、やみくもに攻撃する記述も目立った。
 批判の対象は新聞記事だけではない。人気グルメ漫画「美味しんぼ」も標的になっていた。漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」の〇九年十二月七日号に掲載された回では「食と環境問題」と題し、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の問題点を論じた。
 すると報告書は、作中で主人公の新聞記者の同僚が「もし大事故が起こったら最悪の環境破壊です」と語った部分などの描写六点について、細かく批判。「いたずらに不安をあおる」などとなじった。
 原作者の雁屋哲さんは「書いたことは不正確ではない。電力会社に不都合なだけだ。報告書のコメントこそ不正確だ」と反論。「私も漫画の登場人物も、実名を明らかにしている。コメントした(財団の)人も実名を明らかにしなさい。エネ庁は国民の税金を使って電力会社の秘密警察を務めている。この愚行が公になって恥を千載(長い年月)に残すだろう」と憤った。
 一方、報告書は漢字の書き間違えなどずさんなミスも多い。象徴的なのは「健全性」を「兼先生」と記した部分。それぞれ別の新聞記事へのコメントを記した二カ所で見つかった。誤記載を含む全文が一言一句同じで、一つの記述を使い回した跡がうかがえる。
 新聞名を実在しない「新潟新聞」「福島民法新聞」などと書いたり、掲載日の二〇〇九年を二〇一〇年としたりした箇所もあった。

関連記事