原子力安全委 電源喪失対策 文書「隠す」 「電力側に作文指示」など600ページ分 「全部公開」説明の裏で  情報公開制度骨抜き

 東京電力福島第一原発事故の主因となった長時間の全交流電源喪失(SBO)をめぐり、原子力安全委員会の作業部会が一九九三年に「考慮する必要はない」とした国の安全指針を追認していた問題で、安全委が関連する全資料を公開したと説明しながら、一部を伏せていたことが分かった。安全委は四日、残る文書を公開。班目(まだらめ)春樹委員長は「結果的に隠ぺいしたとみられても仕方ない」と謝罪した。

電力会社に、長時間の全電源喪失を考えなくていい理由を作文するよう求めた原子力安全委の文書

東電は「日本の原発は設計に余裕があり、十分な安全性が確保される」と回答

 文書には、事務局だった科学技術庁原子力安全調査室が電力会社側に短時間の電源喪失を考えるだけでよい理由を「作文」するよう求めたものも含まれ、官業が一体化して安全を軽視していた実態が明らかになった。
 作業部会は海外で全電源喪失事故が起きたことを受け、九一年に設置。有識者による専門委員五人のほか、東京電力などの外部協力者も参加して非公開で協議を重ね、九三年に報告をまとめた。文書は作業部会で配布された資料などで、A4判で計約六百ページある。
 公開文書によると、東電は報告の骨子案に対し、SBOだけを安全指針に取り込むのは「バランスの取れないもの」と主張。関西電力は「指針への反映は行き過ぎではないか」と難色を示した。
 報告書の原案では、電源喪失対策の現状などの主要部分について電力会社に執筆が割り振られていた。
 事務局の「作文」指示に、東電は「日本の原発は設計に余裕があり、十分な安全性が確保される」などと答えた。作業部会は、ほぼ受け入れ、全交流電源喪失が起きても「重大な事態に至る可能性は低い」と記した報告書を作成。安全指針は見直されなかった。
 安全委は会議資料を昨年十月までに全部公開したと説明していたが、国会事故調査委員会が五月下旬、非公開の資料があるのではと指摘し提出を要求。公表漏れが分かった。
 電力側と一体で報告書をまとめたことに対し、班目委員長は「原案を電力会社に執筆させていたのは明らかに不適切で、大変申し訳ない」と話した。
 安全委事務局は「非公開文書は報告書とともに昨年六月に見つかっていた。公開の準備を進めていたが、防災指針の見直しなどで忙しくなり、忘れてしまった」と釈明した。

情報公開制度骨抜き

 安全委がすべて公開したとしていた文書の未公開は、政府に「説明する責務」を求めた情報公開法の趣旨を大きく損なう事態だ。
 問題となった作業部会の資料は、長く放置され昨年、本紙の情報公開請求で存在が明らかになったものだ。
 本紙は昨年六月に情報公開請求し、同月末の段階では基本的に全部公開する方向で話が進んでいた。ところが安全委側は「資料の中に作成者が不明のものや機密があり、全部公開を求めるなら報告書自体が開示できなくなる」と開示請求の補正を要求。これに本紙が応じ、報告書や議事概要が開示された。
 安全委は昨年十月に残る会議資料を公開。今年五月下旬の段階でも「これがすべて」と説明していた。
 安全委側は「失念した」と釈明するが、NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「文書を見ることができない請求者に適切な情報提供をせず、対象文書を絞り業務量を減らそうとしている」と批判。補正により、公開したくない文書を隠したとの疑いは消えない。
 情報公開法では、補正ができるのは請求者の住所が抜けているなど「形式上の不備」がある場合だけ。情報公開制度に詳しい独協大法科大学院の右崎正博教授は「対象文書を狭める補正は法の趣旨を逸脱し、違法と言ってもいい」と話す。
 国会には昨年四月、情報公開法の改正案が提出されたが、成立しないままだ。改正案は不開示にできる条件を厳格化し、手数料を原則廃止とした。改正法を早急に成立させ、公開の間口を広げるべきだ。(宮尾幹成)

作られた「安全」 「全電源喪失ない」結論ありき

 長時間の全交流電源喪失(SBO)を考える必要はないとした報告は、電力会社の「作文」が基だった。原子力安全委員会が「これがすべて」と、虚偽の説明をして公開しなかった作業部会の資料。四日になってやっと公表された文書からは、事務局と電力会社が一体となって報告をまとめた構図が浮かぶ。
 「今後も『30分程度』で問題ない(中長時間のSBOを考えなくて良い)理由を作文して下さい」
 一九九二年十月二十六日付で、事務局の科学技術庁原子力安全調査室が電力会社側に出した文書には、確かにこう書いてあった。
 「今なら絶対に使わない」。安全委事務局の都筑秀明管理環境課長は記者会見で、「作文」の言葉の意図を問われ、こう答えた。
 安全委が検討していたのは、原発の安全指針に長時間のSBOへの対策を盛り込むかどうか。海外で対策が進むなどし、これまでの「短時間のSBOを考慮すれば足りる」との規定に疑問が生じたためだった。
 だが、四日に公表された資料を見ると、検討は結論ありきで始まっていた。九一年十月の第一回会合では、早くも事務局が「SBO発生の可能性が十分低いことを検討する」と方向を示した報告書構成案を配っていた。
一年後、「作文」の指示があり、東電と関西電力は回答を提出。作業部会はこれに沿って九三年六月、報告をまとめた。指針は見直されず、福島第一原発事故では長時間のSBOが炉心溶融の直接の原因になった。
 班目春樹委員長は問題があったと認め「長時間のSBOを想定しないための言い訳作りに終始していたという印象」と述べた。
 なぜ、電力側の「作文」通りの報告書が作られたのか。当時、科技庁の首席安全管理調査官で事務局担当だった酒井彰氏は、電話取材に「古い話だから答えられない。覚えていない」と述べ、一方的に電話を切った。
 協力者として会議に参加した日本原子力研究所(原研、現日本原子力研究開発機構)の及川哲邦氏は「作文」の事実を聞くなり「えっ」と絶句。数秒後、「電力会社は協力者の立場。意見を言うことはあり得ない」「ワーキンググループが組織として『作文指示』することはあり得ない」と続けた。
委員の一人で同じ原研の元主任研究員の生田目健氏も「作文しろと指示することは考えられない。非常用ディーゼル発電機や外部電源の信頼性が高かったので見直しは不要だと考えた」と述べた。
 委員や協力者の証言からすると、事務局が一部委員や電力会社と連携して、「作文」した可能性が浮かぶ。
 東電の松本純一原子力立地・本部長代理は「東電は協力者として参加した。方針決定に関する主張をすることはない」と主張。関西電力は「当時の知見を踏まえ、リスクが非常に低いと考え、意見を述べた」と回答した。

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