福島第一で作業員死亡 周辺病院は閉鎖中 搬送63キロ先

 東京電力福島第一原発で二十八日、掘削作業をしていた福島県広野町、下請け会社の安藤堅(かたし)さん(55)が土砂の下敷きになり、病院に運ばれたが間もなく死亡した。事故収束作業中の死亡事故は初めて。放射能汚染のため近隣には消防署も病院もないのに、東電が双葉消防本部に救急車を要請したのは事故発生から約五十分後だった。

土砂下敷き 救急要請50分後

 東電によると、事故は午後二時二十分ごろ発生。廃棄物を貯蔵する建屋で基礎部の補修工事をするため、現場には作業員十五人がいた。周囲に掘られた深さ二メートルほどの穴に入り、建屋の地下に潜った作業員一人が落下した土砂やコンクリートの下敷きになった。
 ほかの作業員に助け出され、医師が常駐する原発内の医務室に運ばれたが意識はなし。設備の整った病院に運ぶため、救急車で常磐自動車道などを南へ約六十三キロ走り、いわき市の病院に運ばれたが、死亡が確認された。
 問題なのは東電の通報の遅さ。現地対策本部には、事故から約十分後の午後二時半に一報が入ったが、同五十一分にまず各方面へファクスで事故発生の連絡を優先した。救急車を要請したのはさらに十八分後の午後三時九分だった。
 たまたま救急車が近くを警戒活動中だったため七分で到着したが、通常なら三十分かかる。さらに、周辺の病院は閉鎖中で遠方まで搬送する必要があるため、救急車を多少待たせてもいち早く要請すべきだった。
 東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理はこの日の会見で「事故が起きたらすぐに救急車を呼んでおく、ということもあるが、今回はそうしなかった」と説明している。事故を受け、二十九日には全面的に作業を中止する。

「助かる命も…」現場の不安的中

 「福島第一で事故に遭ったり急病になったりしたら助からないと、仲間同士で話していた。今の状態では助かる命も助からない」。作業中の初の死亡事故を受け、福島第一原発の作業員たちは口々に訴えた。
 かつては近くに救急病院があったが、現在は原発事故で閉鎖中。救急車を呼んでも、病院に運ばれるまでどうしても一時間ほどかかる。もしも朝夕のラッシュ時だったら、もっと時間がかかる。
 今回の事故では、東電が救急車を呼ぶのも遅れた。別の作業員は「命に関わる事故では発生と同時に呼んでほしい」と訴えた。
 ベテラン作業員は「汚染の問題があり、現場から医務室まで運ばないと処置できない。必ず近くに車があるわけではなく、運ぶのも時間がかかる」と話す。班長全員に自動体外式除細動器(AED)を使った救命措置の講習をしている社もあるが、少数だという。
 作業員からは、福島第一でドクターヘリが直接離着陸できるようにしたり、救急車が常駐したり、少しでも搬送までの時間を短縮してほしいという訴えがあがる。別の作業員は「福島第一では危険な作業もたくさんある。ぎりぎりの命を救う体制を整えてほしい」と訴えた。 (片山夏子)

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