家屋修理費 賠償書類7000人届かず 東電、避難区域の留守宅送付 転居先特定できぬまま

 東京電力が福島第一原発事故で避難している住民に郵送した留守家屋の修理費の賠償請求に必要な書類七千人分が宛先不明で届いていないことが分かった。対象者の三割に上り、書類が届かない場合、制度に気付かず、修理費の支払いを受けられない恐れもある。東電が不動産登記に頼って留守宅に送付するという安直な方法を採ったためで、東電は避難先の情報を持つ自治体に協力を求めるなど「改善したい」としている。(大野孝志)

発送書類の3割は東電に返送

 賠償の対象は、警戒区域や避難指示区域に建物を持つ人で、建物や家財の損失への賠償に先行して支払われる。
 避難指示が解除されて帰宅する人が、家を直して住めるようにするための費用だ。東電は七月、賠償額を床面積一平方メートル当たり一万四千円(上限は一軒一千万円)と決めた。
 東電は十一月までに約二万四千人の建物所有者に、制度の通知と申請書類を普通郵便で送付。精神的苦痛に対する賠償支払いなど他の賠償交渉で、東電が避難先を把握している人には避難先に送ったが、避難先が分からない人には不動産登記簿に記載されている所有者の住所に送った。
 ところが、そもそも避難区域で住民は留守にしており、郵便局も配達を休止している地域が多い。
 郵便物を避難先に転送する手続きをしていない人には書類が届かず、発送した書類の三割が東電に送り返されている。
 中には、東電から慰謝料の支払いを受け、避難先を把握されているはずなのに、書類を受け取っていない人もおり、東電社内の情報共有のあり方にも問題がありそうだ。
 東電は「被災者から連絡があれば、指定の宛先に書類を送る。修理費が賠償されなくても、今後始まる建物や家財の損失への本格的な賠償でカバーする。避難先の情報を持つ自治体や国と調整し、請求書が確実に届くよう、改善策を検討中」としている。

1000万円で登記情報取得 憤る被災者 「東電償う気ない」 

 無人と分かっている原発事故の避難区域内の住所に、東京電力はなぜ大切な書類を送ったのか-。家の修理費を賠償請求する書類が七千人もの人に届いていない問題を取材していくと、多額の手数料をかけて不動産登記簿を取得しながら、避難先を調べる努力が不十分だったり、社内で共有すべき情報の扱いがずさんだったりした。賠償に対する東電の姿勢が疑われてもやむを得ない実態が浮かび上がる。(大野孝志)
 「原発事故で避難して自宅に帰れないことを、当事者の東電が知らないというのか。償う気持ちなどなく、事務的に作業しているだけでは」
 福島県双葉郡の四十代の男性は、別に暮らしている父親から、自宅の修理費を賠償する制度があることを聞かされ、東電の対応にあきれ、憤った。
 県内の借り上げ住宅で避難生活を送っているが、持ち家には雑草が茂り、雨漏りも心配だ。戻れる日が来れば修理して住みたい。
 精神的苦痛に対する賠償の交渉を通じ、東電は男性の避難先を知っているはずだ。それなのに書類が届かないのは、東電内部の連絡が悪いからだと疑っている。
 東電は、他の賠償では必要書類を避難所などで配ったり、避難者からの請求を受け付けて届けたりする方法を採ってきた。
 今回は「対象区域に家屋があることは明らか」として、約二万四千件の不動産登記簿の内容を法務局のインターネットサービスで入手し、所有者の避難先が分からなければ、登記簿の住所に書類を送った。
 手数料は単純計算で約一千万円。それだけのお金と手間をかけながら、届けるべき人の三割に必要な書類が届いていなかった。
 登記情報には所有者の避難先までは載っていない。避難先の分からない人がいれば、避難先にも届く市町村の広報紙に制度の告知を掲載してもらったり、メーカーが欠陥製品をリコール(回収)する際に出すような広告を利用したりする手段もあったはずだ。
 東電の担当者は「対象者を特定する手段は登記情報しかなかった」と釈明するが、対応が不十分だったのは明らか。
 このままでは、書類が届かなかった七千人は制度も知らず、支払われるべき修理費を受け取れない可能性もある。

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