原発事故賠償 「兆円単位」必要→現状1200億円のみ 政府 法律見直し放置

 東京電力福島第一原発事故を受け、二〇一一年八月に国会で原子力損害賠償法(原賠法)を「一年をめどに見直す」と決議したのに、期限を一年以上過ぎても、ほとんど検討が進んでいないことが分かった。重大事故が起きれば賠償額は兆円単位。これに対して、備えはわずか千二百億円の保険のみ。電力各社からは再稼働申請が相次いでいるが、住民への賠償面で大穴があいたままだ。(岸本拓也)

国会が約束した見直し期限はもう過ぎた

 現行の原賠法では、事故の責任は基本的には電力会社にあるが、巨大な天災などが原因の場合はあいまいになっている。福島の事故では、賠償や除染の事業費で少なくとも五兆円はかかることが確実だが、電力会社が備えているのは一原発当たり上限千二百億円の保険だけだ。
 福島の事故を受け、国は急きょ原子力損害賠償支援機構法を成立させ、国が支援機構を通じて東電に賠償資金を支援し、各電力会社が数十年かけて国に返済していく仕組みをつくった。
 この仕組みは形式的にはどの原発にも適用できるが、実質的には福島の事故のための暫定的なもの。各社が機構に納めている積立金(負担金)も国への返済に消え、次の事故に備えた積み立てではない。
 国会は機構法を成立させる際、国の賠償責任を含め、原賠法を「一年をめど」に抜本的に見直すと付帯決議した。だが、国は原子力政策がまだ決まっていないことなどを理由に具体的な見直しを先送りしている。
 一方、東電を含め、五つの電力会社が七原発の再稼働を原子力規制委員会に申請。新しい規制基準に基づく審査は淡々と進んでおり、今冬にも再稼働する原発が出てきそうだ。安倍政権は「規制委が安全と判断した原発は活用する」と再稼働を推進するが、国の賠償責任のあり方を放置したままでは無責任との批判は免れない。

(メモ)原子力損害賠償法

 日本で原発が商業運転を始める前の1961年に制定。原発事故などで周辺に損害が出た際の賠償制度を定めている。「被害者の保護」とともに、加害者となる「原子力事業の健全な発達」も目的に掲げ、法律の専門家から批判の声がある。福島第一原発事故では東電の能力を超える賠償金が発生、政府は暫定的に原子力損害賠償支援機構を設立し、東電に資金援助しながら賠償している。

原発賠償より再稼働 政府、問題解決後回し

 原発事故の被害の大きさは、福島の事故で証明済みだ。現行の損害賠償と保険の仕組みでは、次の事故が起きたとき、あっという間に資金を使い果たし、住民への賠償が大きく遅れることは必至。現行制度を抜本的に見直す期限はとっくに過ぎたのに、政府はのらりくらりと理由をつけ、一向に進めようとしない。
 「エネルギー政策全体の中の原子力の位置付けや、福島の賠償の進捗(しんちょく)を勘案しながら総合的に検討したい」
 九月三十日の衆院経済産業委員会の審査で、制度の見直し時期を問われ、茂木敏充(もてぎとしみつ)経産相はこう答弁した。
 原子力損害賠償法(原賠法)を直接所管しているのは文部科学省。担当者に聞くと、「将来、原子力をどうするのかを決めずに、賠償だけを取り出して制度設計はできない。具体的な議論はまだ何もしていない」との答えが返ってきた。いまの政府のムードでいけば経産省で議論しているエネルギー基本計画が決まり、福島第一原発事故の賠償や除染の事業費の総額が固まらない限り、もしもの際の金銭的な備えは決まらないことになってしまう。
 だが、安倍政権はすでに「原子力規制委員会が安全と判断した原発は活用する」との姿勢を明確にしている。それに呼応し、事故当事者の東京電力も含め、続々と原発の再稼働申請を出している。
 責任を果たしていないのは国会も同じだ。二年前の原子力損害賠償支援機構法の成立時に「一年後をめどに原賠法を見直す」と、わざわざ付帯決議をしたのはほかならぬ国会だ。
 先月の閉会中審査でも、複数の野党議員が「国会の意思に反している」と政府の遅れをただしたが、追及はどれも中途半端だった。

関連記事