東京電力福島第一原発3号機が、水素爆発を起こした1号機と同様の危険な状態になりつつあることは、吉田昌郎(まさお)所長も重々認識していた。建屋に水素がたまりつつある危険性も。それでも暴走を始めた原子炉はどうにもならず、建屋の上部に行って水素ガスを抜こうにも、放射線量が高く、手の出しようがなかった。結局、3号機も水素爆発を起こしてしまった。 (肩書はいずれも当時)
-核燃料の相当部分が露出している認識は。
「もちろんあります。ちょっとでも早く止められるような方策を練らないといけないというのが、私の至上命題。水を入れること、格納容器の圧力を抜くこと、この二点だけを考えていたが、遅いだ、何だかんだ外の人は言うんですけれども(できなかった)」
-ベントの準備は。
「圧力が上がって、ラプチャーディスク(誤って弁が開いても、汚染蒸気を外部に出さないよう配管内をふさぐステンレス板)を開けば(炉内の蒸気が)自動的に出るようにしておけという指示はしてあった」
「(開いたかどうかは)分からないんですよ。本当に分からない状態で操作しているんです。本来、確認すべき監視項目が何も見られない状態ですから。あたかも完璧な原子炉でベント(排気)するようなイメージで話をされると、これもまたムカつくんですけど」
-(炉を冷やす)水のパイプラインをつくれという指示は。
「私は中にいたので、外からどういう動きをしていたかはちっとも分からないので、結果として何もしてくれなかったということしか分からない」
「逆に被害妄想になっている。結果として誰も助けに来なかったじゃないか。本店にしても、どこにしてもこれだけの人間で、これだけのあれ(作業)をしているにもかかわらず、実質的な効果的なレスキューが何もない。ものすごい恨みつらみが残っていますね」
<平常時なら、パネルの表示を見れば炉の状況は簡単に把握できる。しかし、判断するための材料はほぼ得られず、建屋から水素ガスを抜こうにも、水素がたまっているとみられる場所は三十メートルほど上。放射線量の問題もあり、とても建屋には入れなかった>
-海水をどんどん入れているのに、なぜ(炉の)水位が下がっていくのか。
「(圧力容器から)水が相当漏れていると」
-炉圧力が下がらない原因は。
「結局、ラプチャーディスクを割るような、圧力バランス(一定の圧力まで高まらないと、配管内のディスクが割れず、ベントもできない)まで行っていないんだろうと。開けたつもりでいるが、開いていない可能性が高いんだろうと思っていました」
-(作業を)やられているのは。
「復旧班と発電班です。うちの連中は本当にベテランのプロで、優秀だと思います。部下たちは少なくとも、日本で有数の手が動く技術屋だったと思います。それでこのレベルです」
-逆に言うと、だからここで収まっている。
「収まったと思っています」
<現場がベント、注水を試みる間、東電本店では建屋の水素を抜き、水素爆発を防ごうと検討した。しかし、建屋上部に付いているガス抜き穴が大きな板(ブローアウトパネル)でふさがっている。開く操作をしようにも、付近の放射線量が高く近づけない。テレビ会議の記録では、「ヘリで重いものを落として壊す」「自衛隊に頼んで砲撃し、パネルを吹っ飛ばす」「ウオータージェットで穴を開ける」などの案が検討された。結局、どれも実現しなかった>
-水素爆発を防ぐ対策の検討も併せてやっている。
「やっています。こちらではもう手がないんで、本店に何とか方策はないかと。だけれど、どれを聴いても実現性がないような話ばかりで」
「パネルは、新潟県中越沖地震のからみで開かないようにしている。(新潟では)地震でがたっと落ちてしまって、開いてしまったから、逆に開きづらい方向に改造していたんです。最後ははしご車を持ってきて切るとか、準備にえらい時間がかかる。(対策を指示した)『(経済産業省の旧原子力安全・)保安院来てやれ、ばかやろう』と言いたくなるわけですよ」
<八方ふさがりの中、十四日未明、注水が一時止まり、格納容器内の圧力が急上昇した。テレビ会議で、技術的にはあり得ない重大事故を指す「仮想事故」という言葉が、吉田氏の口から漏れた>
-(汚染蒸気をそのまま出す)ドライウェルベントの検討は。
「もちろんしています。(水をくぐらせて放射性ヨウ素などを千分の一程度に放射性物質を取り除く)ウエットウェルベントを先行してしまったんですね。それをやっている間に爆発してしまった」
-保安院とか官邸がプレス発表を止めているんだというような話は。
「そんな話は初耳です」
-一安心の状況にしてから公表しないと、不安をあおってしまうと考え、発表しなかったのか。
「私はほとんど記憶ないです。広報がどうしようが、プレスをするかしないか、勝手にやってくれと。現場は手いっぱいなんだからというポジションですから。発電所は知りません、勝手にやってくれと、こういうことですね」
-現場としては、本店にお任せ。
「うちは圧力が上がるというのと、いつ水を補給しに行くかと。そこだけで頭がいっぱい」
<十一時一分、3号機の原子炉建屋で水素爆発。数百メートル上空まで噴煙が上がった。1号機の苦い経験を踏まえ、同じ失敗は繰り返すまいと現場は奮闘したが、実を結ばなかった>
「3号機も燃料損傷状態になっていて、1号機と同じような状況になりつつあるということは言っております。爆発する可能性があるから(屋外から現地対策本部へ)全員退避をかけているんです」
-爆発前か。
「前に。やっと連続的に海水が入れるような状態になったときぐらいに、圧力が上がってきて危ないということで、退避命令をかけているんです」
「水素爆発の可能性があるからということで退避をかけています。本店と電話でやりとりし、いつまで退避させるんだという話があって、爆発の可能性があって現場に人間をやれないと私は言ったんです。電話で武藤(栄副社長)から、そろそろ現場をやってくれないかという話があった。ちょっと圧力が落ち着いてきたら、現場に出したら、爆発した」
-行ってから爆発までどれぐらい時間があった。
「結構短かったです。ゴーかけて、よし、じゃあという段取りにかかったぐらいで爆発。最初、現場から上がってきたのは四十何人行方不明という話。私、その時、死のうと思いました。四十何人亡くなっているんだとすると、腹切ろうと思っていました。その後、確認したら、一人も死んでいない。私は仏様のおかげとしか思えないんです」
-1号機と全然違う。
「1号機は板だけですから、ぽーんで終わりなんですけれども、3号機はコンクリートが飛んでいますからね」
切迫した中で、吉田氏ら現場を悩ませたのが、ベント配管に取り付けられたラプチャーディスク(直訳すると破裂板)というステンレス製の薄い板の存在だった。東電テレビ会議の記録をたどると、3号機の対応でも、1号機のベントの際も、このディスクに悩まされた場面が出てくる。
「このままだと、ベント前に(核燃料の)損傷ということになる」
ベントは、事故時に炉心を含め原子炉を守るための手段の一つ。それなのに、福島第一の現場は、ディスクがあるため炉心が壊れる重大事故が起きてからでないと、ベントできない矛盾に陥った。
ディスクは誤操作で放射能が外部に流出するのを防ぐためのものだが、ディスクが頑丈すぎ(設定圧が高すぎ)た。
テレビ会議では、「ラプチャーに頼るとベントがかなり遅れる。外から割れないか」と提案する場面も出てくるが、これは配管を分解しないと不可能。吉田氏は「ばかな質問だね。技術が分かっていない。できませんよこんなの、外から」と憤った。
本紙がこの問題を報じたこともあり、原発の新規制基準ではディスクの圧力を適切に見直すか、いざという時はディスクを迂回(うかい)する別の配管を設置するよう求めている。
3号機の水素爆発を防げなかったことに、政府側の落胆も大きかった。細野豪志首相補佐官は「なんとか防ぎたかったのですけど、防げず、ショックでした」と調書で語った。