福島原発事故 緊迫の東電テレビ会議(上) 3号機

 予想を超えるスピードで原子炉の水位が減り、炉も格納容器も圧力が危険なまでに高まっていく。計器や弁を動かすためかき集めたバッテリー、冷却用の海水も枯渇し、弁も思うように動かない。暴走し始めた原発は、とても人間の手に負えない存在だった。東京電力が公開した福島第一原発事故当初のテレビ会議映像から、緊迫した現場の様子を再現した。(原発取材班)

 圧力上昇 水位は急低下

 テレビ会議の映像は昨年三月十二日深夜から音声が入り始める。福島第一の吉田昌郎(まさお)所長、官邸から東電本店に戻った武黒一郎フェロー、高橋明男フェロー、小森明生常務らが、午後三時半に起きた1号機の水素爆発や官邸との連絡などでの反省点を話し合った。まだ落ち着いた雰囲気だった。
 ところが、翌十三日午前二時四十分ごろから3号機の状況が悪化する。炉の蒸気でポンプを動かし、高圧で炉内に注水する非常用冷却装置(HPCI)が止まり、炉内の圧力がぐんと高まった。現場は消火ポンプで注水を試みたが、炉の圧力に負けて入らない。
 炉内の蒸気を格納容器下部の圧力抑制室に逃す弁(SR弁)を開けようとしたが失敗。HPCIの再起動もうまくいかず、炉の圧力は上昇を続け、冷却は止まり続けた。
 SR弁が開いた時、格納容器のベント(排気)をし、蒸気を逃がす必要がある。ベント弁を開く準備に入ったが、ここで問題になったのが、弁と排気筒の間にある「ラプチャーディスク」と呼ばれる板だ。誤操作などで格納容器内の空気を外に漏らさないよう、一定の圧力がかからないと割れない仕切りだ。
 だが、この時点では圧力が足りず、ベントはできない。本店職員は「格納容器圧がラプチャー(を割る圧力)まで達しなければ、ベント前に(炉心)損傷ということになっちゃうんだよね」とため息をついた。
 もう一つ誤算が生じた。炉内の水位が下がり、核燃料が水から顔を出し始めるのは五時半ごろとみられていたが、六時前、既に四時十五分にTAF(核燃料頂部)のラインまで水位が下がっていたことが判明した。
 「ええっ、そんなに前なの?」。報告に吉田所長は仰天した。炉心溶融も原子炉の損傷も予想時間が一時間以上も早まった。そんな時に、官邸から吉田所長に電話が入る。「海水を使うと廃炉につながる。極力、真水を使うように」との指示。手近な海水を使う予定だったが従った。
 八時四十一分、ベントの準備が整うが、ラプチャーディスクが割れるかどうかは微妙な圧力。吉田所長は、ベントができても消火ポンプで注水できるまで炉の圧力が下がるかも心配だった。「賭けだな、もう…賭け」
 九時十分、やっと減圧、ベントに成功。真水の注入を始めた。
 昼すぎには真水が枯渇し、海水に切り替えた。その後も水の確保や炉の水位の不安定な状況との格闘が続くが、現場が心配したのは前日に1号機で起きたような水素爆発の再来だった。
 午後一時半、現場から原子炉建屋がもやもやし、毎時三〇〇ミリシーベルトという高線量を検出したと報告が入る。建屋内に放射性物質と水素が大量に漏れている可能性を意味した。
 「いつ発火するか分からないんで、水素抜きたいんだけど、何かいい案ないですかね」と、吉田所長が本店に懇願するが、妙案が出ないまま時が過ぎた。
 だが、本店の危機感は薄かった。七時前、勝俣恒久会長は武黒氏と電話で「(水素爆発は)確率的には非常に少ないと思うよ。次の記者会見で聞かれたら否定するよ。やっぱあり得ないと」。
 3号機が水素爆発したのは翌十四日午前十一時すぎ。現地対策本部の映像は一秒あまり揺れた。

東電 メンツと保身に終始

 「絶対にダメというのが保安院の見解で、このプレス(発表)は行うなというのが強い指示だそうです」
 十四日午前九時前、東電本店社員がこう報告した。3号機の格納容器の圧力が異常上昇していることを発表するなと保安院は言ってきたのだ。
 この日早朝から3号機は注水しているはずなのに状況が悪化。炉心溶融が30%まで進んでいると試算され、午前六時四十分には、作業員に現場から対策本部がある建物に退避するよう命令が出るような状況だった。
 一方、福島県庁は十四日午前九時からの部長会議を報道陣に公開して開催する予定。県としては、会議開始までに3号機の状況を広報し、それを受けて対応を協議する形を取りたかった。
 だが、保安院は情報を伏せ、東電にも発表しないよう求めた。これには、1号機の水素爆発など重要な発表を知らぬ間にされた首相官邸側が怒り、事前に発表内容を知らせるよう求めたことも影響していた。
 結局、保安院は九時十五分からの記者会見で、3号機の状況を説明しており、国と東電の不毛なすり合わせに、福島県は振り回されただけだった。
 九時半すぎ、本店で石崎芳行立地地域部長は小森常務に「(県の印象は)相当悪いと思いますね。後々ちょっとつらい立場になる」と愚痴った。
 この期に及んで近隣住民へ知らせることより、「立場」を気にする東電幹部。国会事故調報告書は「東電の企業体質の問題が露呈した」と断じている。

計画停電なら殺人罪といわれた

 福島第一、第二と東電の主要な原発が止まり、電力需給が厳しくなったことで、東電は地域ごとに三時間ほど送電を止める計画停電に動きだした。
 ところが、藤本孝副社長は枝野幸男官房長官らに呼び出された。本店に戻った藤本氏は十四日午前二時すぎ、憤まんやる方ない様子で給電の担当者を集めた。話の内容が外部に出ないよう、音声は切ったはずだが、しっかり記録されていた。
 「官房長官から非常に強いことを言われていることについて、情報共有ということでお願いします」。藤本氏はこう切り出した。
 藤本氏は、枝野氏らから、「(予定通り停電をやれば)人工呼吸器や人工心肺を家庭で使っている人たちをお前は殺すことになる。それを承知でやるなら殺人罪を問う」と言われたと訴えた。
 枝野氏からいかに理不尽なことを言われたか、怒りを共有してほしい口ぶりだった。
 発言は四分あまりにわたって続いた。
 前夜に計画停電の実施計画を発表したが、十四日午前は実施しないことに。その旨の広報をどうするか問われると、藤本氏は「広報はしない。今から記者会見なんてやったら、また大変なことになるからさ」。
 職員の「電力需要が落ち、結局やらずにすんだという形にするしかない」「ぎりぎりに見極めたという言い方で」などの意見を聞いていた藤本氏は「できた、できた。それでいいよ」と答え、会議を終了した。

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