筑波大准教授・佐藤嘉幸さん「議会は県民の利害代弁を」

 日本原子力発電(原電)東海第二原発の再稼働の賛否を問う県民投票条例案が、6月の県議会で否決された。審議経過を見ると、最大会派で過半数を押さえるいばらき自民と、国民民主系の「県民フォーラム」の利害が露骨に表れていた。
 自民が主導する県議会は、条例案を議論するために設置された連合審査会に、県民投票とは何の関係もない経済産業省資源エネルギー庁と原子力規制庁の職員を5人も呼んだ。
 エネ庁には「再稼働できる原発は再稼働する。東海第二もその対象だ」と明言させた。規制庁には、新規制基準は福島第1原発事故以前よりはるかに厳しいと言わせた。

筑波大准教授・佐藤嘉幸さん

 いばらき自民が、エネ庁や大手電力会社を中心とする原子力ムラや、原発再稼働は必要だとする自民党本部の利害を代弁していたことは明らかだ。
 県民フォーラムは「地域性」という言葉を使い、条例案に反対した。「地域性」が何を指すかは明言しなかったが、東海第二が立地する東海村や、原発メーカーの日立製作所がある日立市などのことだろう。県単位で意見収集すると、そういう場所の意見が薄まってしまうということだと思う。
 県民フォーラムは、県民投票の結果で民間企業の事業を制約すれば訴訟の可能性がある、という点も反対理由に挙げた。つまり、日立や原電といった特定企業の利害しか代弁していないということだ。
 公明は本会議での意見表明を辞退した。自民に気を使ったと思う。県議会の自民、県民フォーラム、公明の主要会派は誰も県民全体の利害を代弁していない。これが最大の問題だ。
 住民団体の直接請求を受けて条例案を提出した大井川和彦知事は、原発の安全性検証、実効性ある避難計画策定などの条件をクリアしなければ県民投票はできないと言っただけで、県民投票を行うべきか否かについては玉虫色の意見しか出さなかった。
 2017年の知事選では自ら「県民投票という案もある」と言っていたにもかかわらず、今回は議会に丸投げした。民主主義の観点から批判されるべきだ。
 住民投票の直接請求は、ある問題について住民が議会には任せておけないと考えた時に、署名を集めて直接民主主義に訴えるシステムだ。だが、直接請求の結果は最終的に議会の判断に委ねられている。
 議会は当然、自分たちの意向に反する投票結果を恐れて握りつぶそうとする。意向に添う結果が出そうな直接請求しか認めないなら、システムとして破綻している。要件を満たせば自動的に住民投票が行われるような制度変更が必要だ。
 福島事故後、多くの自治体で住民投票の直接請求があったのは、原発再稼働問題を議会には任せておけないという世論のうねりがあったからだ。茨城でもまた別の動きが出てくるかもしれないし、他県でも続く可能性が高い。この流れは止められない。
 世論とあまりにも乖離(かいり)した政治は、民主主義としての正当性を失う。議会制民主主義が狭い利益集団の利害しか代弁しないとしたら、民主主義とは何なのか。今回の県民投票条例案否決は、根源的な問題をわれわれに突き付けている。(聞き手・宮尾幹成)

<さとう・よしゆき> 1971年、京都府生まれ。京都大経済学研究科を修了後、パリ第10大学で博士号(哲学)取得。専門は哲学・社会思想。東京電力福島第一原発事故後は、原子力を巡る社会的、政治的問題について積極的に発言している。著書に「脱原発の哲学」(共著)など。

東海第二原発とは?

 日本原子力発電が1978年11月に営業運転開始。出力は110万キロワットで、電気を東京電力や東北電力に供給していた。東日本大震災時は外部電源を失い、冷温停止まで3日半かかった。都心に最も近い原発で、都庁までの距離は福島第一からの半分程度の約120キロ。重大事故が起きた場合、首都圏全域に甚大な被害を及ぼす可能性がある。
 2018年11月に原子力規制委員会が最長20年の運転延長を認めた。再稼働の対策工事は21年3月までかかる見込みで、資金支援のため、東京電力などが約3500億円を拠出する構図も固まった。再稼働には、東海村や水戸市など6市村の同意が必要で、首長がどう判断するかが焦点になる。

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