元原子力規制庁技術参与・松田文夫さん「原電技術者、声上げて」

 日本原子力発電(原電)東海第二原発で2005年から06年にかけて、経済産業省原子力安全・保安院(当時)の保安検査官として、巡視点検や年4回の保安検査を担当していた。
 民間企業から保安院に転職し、原発の現場を知らなかった私にとって、原電の技術者は検査官事務所の同僚よりもよほど頼りになる先生だった。その中には、後に副社長になる和智信隆さん(現・フェロー)もいた。
 配管系統図や機器図を見ながら的確に原子炉の仕組みを教わった経験は、その後の仕事にどれほど役に立ったか分からず、今でも深く感謝している。
 そんな私が東海第二の再稼働に反対するのは、恩知らずのそしりを免れないかもしれない。しかし、原子力規制委員会に申請中の特定重大事故等対処施設(テロ対策施設)が審査に通ったとしても、再稼働は容認できない。
 規制委は、新規制基準を満たしても絶対的な安全性は確保できないと公言しており、事故が起きる可能性はあるからだ。

元原子力規制庁技術参与・松田文夫さん

 原発事故が起きるとどうなるかは、福島の状況を見れば分かる。
 福島の住民は、積算放射線量が年間20ミリシーベルト以下になれば強制的に帰還させられ、被ばくさせられている。一方で原子力基本法は、原子力事業者に原子力施設の外側を年間1ミリシーベルト以下にするよう義務付けている。どこを探しても20ミリシーベルトまで被ばくして良いとする法律はない。福島では、国が率先して法律に違反していることは明らかだ。
 20ミリシーベルトという数字は、復興庁や文部科学省などの役人が作文した文書にあるだけだ。法律に基づかない、このような裁量行政が許されるだろうか。
 年間20ミリシーベルトの科学的根拠として、国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告がよく引き合いに出される。確かにこの勧告は、原子力事故が収束する過程で線量低減に長期間を要する状態を「現存被ばく状況」と定め、20ミリシーベルトを放射線防護の基準としているが、数値の根拠は書かれていない。
 旧ソ連・チェルノブイリ原発事故以降、それまでの年間1ミリシーベルトが守れなくなったからといって、勝手に新たな「状況」を設けて基準を20倍にするのは、ご都合主義そのものだ。
 規制委に数値の根拠を尋ねると、内閣府の原子力災害対策本部に聞けとたらい回しされる。原災本部に問い合わせると、年間20ミリシーベルトの健康リスクは喫煙や飲酒、肥満、野菜不足など他の発がん要因によるリスクと比較して十分に低いという回答が来るが、定量的な根拠は何も示されない。法律的にも科学的にも、20ミリシーベルトに根拠はない。
 このような国の対応が原発に対する国民の信頼を損ない、再稼働を妨げている一因にもなっていることに、原電の技術者たちは気付いているだろうか。
 原電に所属しながら再稼働に反対するのは難しいだろうが、年間20ミリシーベルトのおかしさについて声を上げたり、福島の汚染地区を元通りに戻す手助けをしたりすることはできるはずだ。
 再稼働を進めたいのなら、まずは汚染地区に強制帰還させられている福島の人々に寄り添う姿を見せてほしい。かつて親切にしてもらった原電の皆さんに、心よりお願いしたい。 (聞き手・宮尾幹成)

<まつだ・ふみお> 1948年、東京都豊島区出身。71年、東京大工学部卒業。鉄鋼メーカー、旧原子力安全・保安院を経て、20年3月まで原子力規制庁技術参与。核燃料物質の輸送に関する安全審査などに携わった。近著に「告発・原子力規制委員会−被ばくの実験台にされる子どもたち」。

東海第二原発とは?

 日本原子力発電が1978年11月に営業運転開始。出力は110万キロワットで、電気を東京電力や東北電力に供給していた。東日本大震災時は外部電源を失い、冷温停止まで3日半かかった。都心に最も近い原発で、都庁までの距離は福島第一からの半分程度の約120キロ。重大事故が起きた場合、首都圏全域に甚大な被害を及ぼす可能性がある。
 2018年11月に原子力規制委員会が最長20年の運転延長を認めた。再稼働の対策工事は21年3月までかかる見込みで、資金支援のため、東京電力などが約3500億円を拠出する構図も固まった。再稼働には、東海村や水戸市など6市村の同意が必要で、首長がどう判断するかが焦点になる。

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