特集/福島原発事故 東電会議映像3回目公開 高汚染水見過ごす

 東京電力福島第一原発では、今も高濃度汚染水の問題が、事故収束の足を引っ張っている。今回、東電が公表したテレビ会議の記録は、作業員が汚染水で大量の被ばくをし、汚染水問題がクローズアップされ始めたころ。東電はどう認識し、対応してきたのか。テレビ会議のやりとりから検証した。

◆放水の影響に終始

 二〇一一年三月二十日午後二時半、事故対策拠点のオフサイトセンターにいた高津浩明常務(当時)が、声を上げた。
 「今、放水をたくさんしていて、その水が海の方に流れた場合、いろいろ問題が起きる。現時点で海に流れない方策をすべきでは、という提案がある」
 この発言を受け、現場は、水が海に流れ込んでいないか「みずみち」を探し始めた。
 ここで懸念されていたのは、後に大問題となる溶融した核燃料に触れた高濃度汚染水ではない。主に消防車での放水で飛び散った水が、周囲に降り積もった放射性物質のちりを洗い流し、海に流れ出てしまうことを心配していた。
 これより一週間前の三月十三日の時点で、水素爆発した1号機に注水しても、水がたまらず、原子炉や配管の一部が壊れていることに気づいていた。炉に注いだ水はどこに行った? 高濃度汚染水となって建屋のどこかに漏れているのではないか? といった可能性にも気づくべきだったが、テレビ会議のやりとりからは、その気配は感じられない。
 二十一日午後九時、1~4号機放水口の南側で採取した海水から法令限度の百倍を超えるヨウ素131を検出したとの報告が入った。
 本店社員は「核物質の種類ごとに濃度を整理し、外へ希釈されてどうなっていくかを推定したい」。高津常務が「非常に重要な扱いになるので、結果は遅滞なくこちらにもください」と各方面への情報開示の重要性を説くと、武黒一郎フェロー(当時)が「いまの高津さんのお話、徹底するように」と指示。
 正しい対応だが、もし漏れたのが、後に困った存在となる原子炉から出た高濃度汚染水であれば、こんな落ち着いた状況ではいられなかった。

◆「作業員が高線量被ばく」急転

 放水した水の行方に気を取られていた現場を仰天させたのが、三月二十四日に3号機タービン建屋で起きた作業員の高線量被ばくだった。
 「作業員の方三名が一七〇ミリ前後の被ばくをしていることが、今分かりました。環境が急変している可能性があります」。昼すぎに一報が入った。前日は放射線量は低く、水もほとんどなかったと報告されていた。だが、二十四日には地下に高濃度汚染水が広がっていた。
 関電工の作業員ら四人が建屋地下で五七~一八〇ミリシーベルトの外部被ばくをし、短靴の二人は汚染水が触れた足に高い局所被ばくもした。
 被ばくした作業員の病院搬送が終わり、今後は汚染水がどこにたまっているか、現場と本店で情報を共有することを確認した後、吉田昌郎所長(当時)は「たまり水の放射能濃度が高い可能性というのは、ちょっと、かなり意外だった」と、自分にとっても想定外だったと率直に認めた。
 翌二十五日朝のミーティングでも、吉田所長は、作業員に向けて「今回のように高い放射線量のたまり水の可能性については、やはり失念していたところがあります」と発言。
 その上で、「(作業員には)前日の線量の実績から、次の日も変わらないとの思い込みがあった。だから、線量計が二〇ミリシーベルトの(設定値に達し)警報を発したのに、誤警報と判断し、作業を継続してしまった」と、現場にも反省を促した。
 「線量計の警報が鳴ったら、ただちに退域してください」「水は非常に線量が高い可能性があることをよく理解して作業していただきたい」と念を押す。そして「全員の安全が一番重要です」と話した。

◆「海へ流れていないのか」

 海の汚染は大丈夫なのか? その問題意識は、二十四日の作業員の被ばく問題を機に、作業員の安全へと変わっていった様子もがうかがえる。
 「今後を考えると、水をどこかに集めておく仕組みを至急考えておかないと、もうにっちもさっちもいかなくなる。そこのところを大至急、本店さんで検討をお願いしたい」。吉田所長が東電本店に懇願した。
 本店の武黒フェローは「この水は原子炉建屋から来ていると想定される」と答え、建屋地下の汚染水の放射性物質を調べ、漏出元を突き止め、早期に対策を取ることを提案。本店社員も「3号機も1、2号機と同じようになっている。調べる対象が増えつつある」と言いつつ、調査への意欲を示した。
 だが、その後の動きは会議の記録を見る限り、非常に鈍い。
 二十五日に採取した海水から法令限度の千二百五十倍ものヨウ素131が検出されたとの情報が入っても、本店社員が「1F(福島第一)内で分析できるように進めたい」と応じたくらいで、海への漏出対策を急ごうとの話にはならなかった。
 それどころか、汚染水が海のすぐ近くにたまっている状況を公表するに当たり、本店では二十八日昼前、「トレンチ(地下のトンネル)にも水がたまっています、ということだけを淡々と公表することでお願いします」と、漏れる危険性には触れないことを意思確認した。
 海江田万里経産相(当時)は同日の東電と国のミーティングで危うさを感じたのか、断面図とともに「海へ流れていないのか?」と書き留めている。

海江田経産相(当時)が書き留めた3月28日のノート

◆現場と本店 連携の悪さ

 現場や本店の指揮系統が混乱し、うまく連携できていない場面も随所で見られた。
 「ずっとこっちから言っていて、本店に拒否されてた案だけど」。三月十八日の昼、吉田所長がぶちまけた。弁を二、三個開けて原子炉への注水配管と共用すれば、2号機の使用済み核燃料プールに海水を入れられるというアイデアだった。
 本店社員が「妙案じゃないですか」と応じると、吉田所長は「海水を入れてはいけないということで、みんなためらっていた。どうして簡単な案をやらないの! 今一番重要な問題でしょ!」。
 「申し訳ないです。そこまで余裕がなかったもんで」と本店。武黒フェローが「否決されていたかは別にして、活用できるか検討を」ととりなし、注水は実現した。
 二十一日夜には、原子炉への注水作業に当たっている外部の人からも、指揮系統の悪さが指摘された。
 「東電の現場の体制について、しっかりしていただきたい。指揮連絡体制を構築しないと、作業を十分遂行できないのではないか。指揮系統にいる東電社員以外の人が遊んでいて、現場がバラバラ」
 連携の悪さは、四月に入っても続く。1号機が再び水素爆発するのを防ぐため、本店が格納容器への窒素注入を五日から始めると言うと、吉田所長がかみついた。
 「全然内容を聞いていないのに、今日二日だよ? 五日までにどんな手順かなんて、一回も聞いていない。早く説明に来いって。勝手に本店だけで検討するんじゃなくて」

◆「総理命令…今夜中に放水を」

 3号機の使用済み核燃料プールが危険な状態になる中、当面の危機を回避できたのは東京消防庁のハイパーレスキューによる大量放水の役割は大きかった。ただ、十九日午前零時半ごろから始まった放水は、首相官邸の意向でねじ込まれ、現場は混乱した。
 「消防庁は都知事の配下ですから。とにかくやっぱり、ハイパーレスキューに今日は放水してもらいたい」
 前夜、海江田万里経済産業相が吉田所長に懇願した。
 現場は3、4号機の電源復旧工事を進める予定だったが、十九日午前零時に延期。だがレスキューは「ボンベが足りない」と拠点のJヴィレッジに戻ってしまう。福島第一の職員は「『フィルター付き全面マスクなら、サイト(原発)のをどうぞ』と言ったが、それだけでもない様子」と困惑した。
 海江田経産相もレスキューと十分に連絡が取れていないのか、福島第一の現場に「これは総理の命令でもありまして、今夜中に必ず放水をやってくださいということです。皆さんからも督促してください」と要請した。
 ようやく午後十一時半になって消防車六台が福島第一に到着。その後の作業は迅速で、放水も成功。プールに水がピンポイントで注がれる様子に拍手がわき起こった。
 しかし、一息ついた後、吉田所長は「連続放水というのは分からなかった。手順がはっきりしなさすぎて困っちゃうんだけどさあ」と本店にかみついた。
 この特集は、山川剛史、大野孝志、片山夏子、清水祐樹、小野沢健太が担当しました。



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