バカにできない?肉の生産で出る温室効果ガス<地球異変・温暖化のはてな>

 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス。発電したり、車を運転したりなど工業分野での大量排出はイメージしやすいが、畜産や農業など食生活と密接に関わる分野を通じた排出も少なくはない。「地球異変・温暖化のはてな」の3回目は、豚肉と牛肉を例に、食肉を作るためにどれくらいの温室効果ガスを排出しているのかを解説する。 (福岡範行)

豚肉1キロでCO2を7.8キロ排出

 食生活に関わる温室効果ガスの排出量は、肉類の消費関連が最多だとされる。豚肉の場合、小売店で並んでいる骨などを取り除いた精肉1キロ当たりの排出量はCO2換算で約7.8キロとされる。これは、えさの生産や飼育、食肉処理などの過程の排出量を合算したものだ。その後、小売店で売られるまでに、さらに約3.3キロ排出されるという。
 宇都宮大の菱沼竜男准教授(農業環境工学)は2015年、原料調達や廃棄物処理も含めて商品の環境負荷を考える「ライフサイクルアセスメント」という手法で、一般的な養豚での排出量を、精肉までの工程ごとにまとめた。
 7.8キロの内訳では、えさのトウモロコシや小麦の生産・輸送が30%、ふん尿処理が50%を占めている。
 日本の養豚では、えさを米国などから輸入するトウモロコシや小麦に頼っている。その栽培に使う重機や輸送の船の燃料、化学肥料などからCO2の排出がある。安価な飼料を大量に輸入することで、環境への負荷が大きくなっているだけではなく、他国でのCO2排出にも関わっている。
 ふん尿処理では、尿を川に流す前の窒素を取り除く浄化の過程で、温室効果ガスの亜酸化窒素が出てしまう影響が大きいという。ふんの堆肥化でも、同じく温室効果ガスのメタンが出てしまうことがある。
 えさの自家栽培や、ふん尿を田畑の肥料にする循環型の農畜産ができれば、温室効果ガスの排出を減らせる可能性がある。だが生産コストなどの問題で、国内にはえさの穀物を育てやすい場所が少ない。飼料用の米や一部の食品廃棄物をえさにする取り組みも進むが、量の確保に課題が残る。
 菱沼准教授は「人が食べないものをエネルギーに変えられるのが家畜の良さだが、今は穀物を食べさせ、早く育てている。経済性重視の飼い方を改めないと、環境問題との擦り合わせはなかなかできない」と指摘。養豚農家だけでは解決できないとし、「消費者が若干高くなっても国産飼料で育った肉を選ぶかどうかにもよると思う」と語った。

牛は「ゲップ」でメタン 排出量は豚肉の4倍

 国連食糧農業機関(FAO)の2013年報告によると、世界の温室効果ガスの総排出量のうち、実は畜産業だけで14%に上るという。特に多く排出するのが牛で、畜産業のうち65%を占める。
 「毎日でもステーキを食べたい」。小泉進次郎環境相は2019年9月、国連気候行動サミット出席で訪米した際に報道陣に述べ、温暖化対策の担当大臣としての問題意識を問われたのは、このためだ。
 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の荻野暁史上級研究員によると、牛肉の生産に関わる温室効果ガス排出量は同じ量の豚肉の4倍ほどに上る。
 主な要因は、牛がする「ゲップ」。荻野研究員の04、07年の論文では、国内で育てられた黒毛和牛の場合、頭や内臓を取り除いた骨付きの枝肉1キロ当たりの排出量はCO2換算で23.1キロ。うち、ゲップなどで出るメタンが半分余りを占めた。
 牛は牧草などを胃から口に戻しながら食べる「反すう」の際、メタンを発生させる。農研機構ではメタンの抑制や育成期間短縮につながるえさなども研究しているが、温室効果ガス排出削減の効果の大きさは、まだ分からないという。

お肉の生産で出るCO2、ガソリンに置き換えると?

 農林水産省の食料需給表によると、2018年度の国内での肉の年間消費量は、1人当たり精肉の重さで、豚肉が約12キロ、牛肉が約6キロ、鶏肉が約13キロ。それぞれ、どの程度の温室効果ガス排出につながるのかを調べるため、ガソリンの使用量に換算する試算をした。
 結果は、豚肉は少なくともガソリン約40リットル分、牛肉は約60リットル分だった。鶏肉は1キロ当たりの排出量が豚の半分程度と想定して、約20リットルと推計した。
 ただ、いずれも小売店などへの流通の過程で出る排出量は省いており、牛肉は枝肉1キロ当たりの排出量から計算したため、肉の消費による実際の排出量は、さらに多いとみられる。

アプリで「環境に良い食品」選び 欧米に遅れる日本

 環境に良い食品を手軽に選べるようにする試みも始まっている。国内外の大学などの共同拠点・総合地球環境学研究所(京都市)では、持続可能な食について研究するチームが、スマートフォンのアプリ「エコかな」の開発を進めている。
 アプリは、食品パッケージのバーコードを読み取ると、環境や健康への影響を5点満点で表示する。欧米で普及しているものを参考にした。ドイツのアプリは20種類以上のデータ集を基に商品を評価し、セールなどの情報も利用者に届けていて人気という。
 一方、日本は評価に必要な食品の製造過程の情報があまり公開されていない。エコかなは今年3月、iPhoneの試行版を公開したものの、評価は個々の食品ごとではなく、食品の種類ごとにとどまっている。
 プロジェクトリーダーで同研究所のスティーブン・マックグリービー准教授(環境社会学)は「ヨーロッパでは食品が安全かなどを、消費者が権利として知るべきだという運動が強いが、日本はあまりない」と指摘する。各政府も企業に情報開示を求めるプレッシャーをかけているという。
 エコかなでは、消費者アンケートで情報開示の要望を集めて企業に伝え、データ拡充を目指す。環境などに配慮した商品のデータを評価に反映させることで、先進的な企業の努力を消費者に伝える狙いもある。
 試行版はアプリストアで「エコかな」と検索。開発は来年3月で終わるが、活用が続くよう環境団体などとの連携を模索し、アプリの仕組みも公開する。

環境負荷や健康面などを5段階評価で表示するアプリ「エコかな」の画面。「輸入牛肉ばら脂身つき」は2点と低い

温室効果ガスとは?

 地表にとどまる赤外線を増やし、気温を上げるガスの総称。産業革命以降、人による排出が増え続け、地球温暖化が起きている。最も排出が多いのは二酸化炭素(CO2)で、2010年時点では世界の総排出量の4分の3を占めた。他は、温室効果がCO2の25倍ほどのメタンや、300倍近い亜酸化窒素など。CO2換算ではメタンが総排出量の16%、亜酸化窒素が6%ほどという。

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