調書は語る 吉田所長の証言 (5)忘れられたプール 「水が蒸発していく」

 原発事故というと、炉の状況に目が向きがちだが、東京電力福島第一原発の事故では、使用済み核燃料プールが同等かそれ以上に重大な危機にあった。吉田昌郎(まさお)所長はプールの危機を十分認識していたが、かき消すように急報が入り、ほとんど対策が取れないまま時が過ぎていった。(肩書はいずれも当時)

■ 当初から危険認識

 -使用済み核燃料プールに何らかの手だてを講じなければと思ったのか。
 「これは最初から思っていました」
 「原子炉を何とか制御しなければいけないというのは一番高いんですけれども、当然、核燃料プールも冷却ができていないわけですから、使用済み核燃料の崩壊熱ですね。温度が上がってきて水が蒸発していくだろうと。手を打たないといけないというのは並行して思っておりました」
 -三月十四日未明、4号機の核燃料プールの温度は八四度というが、その前は測っていないのか。
 「測れなかったんですね。人の問題があるし温度計そのものも生きていないんですね。何とかして測れという指示はしていたんです」
 -いつ頃から指示を。
 「結構早い時期にしていましたよ。4号機は、少なくともその時点で原子炉建屋に入ることが全然問題なかったはずですから。3号機の影響でちょっと線量は上がりますが、建屋そのものの中に線源があるわけではない。一番問題なのは温度ですから、温度を見てきてくれと。実際3号機にかかり切っていたので、どれぐらい人を割けたかよく把握していないんですが」
 -1~3号機のプールの監視が必要との思いは。
 「同様です。ただし一番厳しいのは、4号機は定期検査が始まってすぐですから、五百四十八体の核燃料を全部、一年間燃えた核燃料を核燃料プールに入れています。プールの条件として一番厳しいわけです。1~3号機は、ある程度冷却されたものが入っているわけです。ですから温度の上がりしろから考えると、4号機が一番クリティカル(危機的)になる」


■ 発生6日目やっと対応

 <十五日朝、4号機の原子炉建屋で火災が発生。十六日、ようやく使用済み核燃料プールへの対応準備が始まる。一方、1~3号機は消防車での原子炉への注水が続いていた>
 -優先順位の中で、2号機の使用済み核燃料プールの冷却がないのはなぜ。
 「1、3、4号機は(水素爆発で)上があいているので、外から注水する方法がある。2号機はつぶれていないから外から注水できない。外から注水する方法を考えましょうといった時に、2号機はもともと対象外になる。2号機は何とかして中のシステムや配管を生かし注水できることを考えていくということです」
 -他の1、3、4号機も同様に考えていたか。
 「もともと1号機は高線量になっていて、人が近づけない状態でした。3号機は記憶にないんですけれども、たぶん線量的な問題があって、1、3、4号機とも爆破されているので、そのラインが生きているかの確認が非常に難しいところもあった。2号機は施設は爆破されてなく健全なので、ラインは生きているでしょう。その時点でそんなに線量は高くなかったので、それをチャレンジしたということです」

■ 空から注水 効果なし

 <十七日、3号機のプール冷却のため、上空からヘリ、地上から高圧放水車で水が投入された>
 -政府との調整は本店がやっているのか。
 「本店です。2号機のように、中で注水できるのはこちらでシステム構築しますが、外からは道具がこちらには何もありませんから、外部注水する方法は本店本部でお願いするという仕分けになっております」
 -優先順位で一番に4号機のプールとあるが、十七日は3号機のプール冷却のためとなっているが。
 「午前中に偵察のヘリコプターが飛んだ。それにうちの社員も乗っていて、ビデオ撮影をした。建屋が破損しているんですけれども、4号機の核燃料プールにどうも水位がある程度ありそうだとわかった。そのような情報が入ってきたので4号機の優先順位はとりあえずちょっと下がった」
 -3号機プールの冷却は、高圧放水車がやるという話だったが、ヘリコプターが先になった。
 「セミの小便みたいですね」
 -放水するときは一時退避することになるのか。
 「そうです」
 -その調整とかは。
 「本店では全然調整しないで、こちらにどんどん人が突っ込んでくるわけです。こちらは作業をしたいが、いつから放水するといったら、できないではないか、待っていろとか、こういうやりとりを私が現場でやらないといけなかった。極めて面倒くさかった」
 -自衛隊や警視庁、消防庁による注水でよかったものはあるか。
 「まず機動隊さんは最初に来てもらったが、あまり役に立たなかったんです。それも来るまでにすったもんだして。要するに効果がなかった。水が入らなかったということです」
 -自衛隊は。
 「はっきり言って、今から申しますと、すべて意味がなかったです。注水量的に全部入っても十トンとか二十トンの世界ですから、燃料プールの表面積から考えて意味がない。届いているものがどれくらいあったか疑問です。消防庁は特にそうですが、最初はこういくんですけれども、だんだんホースの先が落ちてくるんです。落ちてきているといっても直しに行かない」
 -あまり消防庁のものは効いていないんですね。
 「まったく効いていないです。ヘリコプターも効いてないし、自衛隊さんも申し訳ないけれども、量的には効いていないし、消防庁も効いていないし、機動隊はもともとまったく効いていなかったと思います」
 -高圧放水車は一定の効果はあるのか。
 「あるだろうと思っていました。ある意味そのときはこれしかなかった。だから、本当はそれこそ筒先を内側に何とか持って行って、ドボドボと上から注水したいんですが、揚程(ポンプが水をくみ上げられる高さ)も高さも足りない中で、やらないよりはいいだろう、極端に言うとそのぐらいの感じでいたということです」
 <二十日すぎから「キリン」や「ゾウ」「マンモス」など動物の愛称で呼ばれた生コン圧送車が放水に活躍。ようやくプール冷却が軌道に乗り始める>
 -キリンやゾウとかあったがそれはどうか。
 「あれはいいです。あれが来て初めてちゃんと注水できたということ。筒先をプールの近くに持っていって入れていますから、ロスがほとんどなくて全部水が入るというのがキリン以降の話。(それまでは)ある意味でやみくも作戦です」
 -やみくも作戦から変わった経緯は。
 「要するにぴゅっぴゅん作戦は、効いたとしてもずっと続けないといけないわけです。すごく大変だし、パラで(並行して)連続注水ができるように考えておいてくれという話はその前からしてあって、その中でコンクリート注入車が使えるのではと本店からあった。一台とりあえず手配できるという話で、キリン部隊というものを本店でつくってくれた。その連中が動かし方などをマスターして、やってみたら、やっとそれなりに水が入った。これからどんどん持ってこようということで、自衛隊さん、消防庁さんのお世話にならずにすんだということです」

◆その時、政府や東電は… 燃料プール対策後手

 米国との折衝を担当した長島昭久民主党議員の調書によると、米国が事故発生当初から最も懸念していたのは4号機の核燃料プールだった。一連の水素爆発もプールが地震で崩壊し、損傷した核燃料から発生した水素によるのでは、との見立てもしていた。
 関西電力大飯原発(福井県)の運転差し止め訴訟判決で、原子力委員会の近藤駿介委員長による「最悪のシナリオ」が引用された。実はこの試算、米国から示された強い懸念を強く意識したものだった。
 余震などで4号機プールが損傷し、核燃料から大量の放射能が出ると現場作業ができなくなり、炉もプールも放置され、原発250キロ圏まで避難地域が広がる危険性を説いた。後に東電は4号機プールの下部を鉄骨やコンクリートで補強したが、これも最悪のシナリオを受けた形だ。
 近藤氏は3月22日に菅直人首相から依頼を受けたが「本来なら、最悪のシナリオは(プールの危険が高まった)16日の一番危機だった時に作るべきだった」と調書で語っている。
 一方、テレビ会議の記録では、吉田氏も東電本店もプールについては何ら有効な手だてが打てなかったことがよく分かる。
 17回も話題に上っているのに、そのたびに炉の悪い知らせがもたらされ、炉への対応に追われ、プールは忘れられてしまう繰り返しだった。結局、まともにプールへの対応が取られたのは16日以降だった。

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