TV会議映像公開 重要証拠 まだ東電に 汚染水流出など謎残る 専門家「的確な指示できず」

 東京電力が六日に公開した福島第一原発事故のテレビ会議映像には、事故当初の東電本店と現場の緊迫したやりとりが記録され、間違いなく事故の真相解明につながる貴重な資料だ。ただ、公開されたのは当初の百五十時間分のみで、厳しい視聴制限も付く。国際的にも批判を浴びた高濃度汚染水の海への流出など、東電がどう認識、対応したか重要な証拠はまだ東電の手の中にある。(加藤裕治、榊原智康、永井理)

水素爆発後の福島第一3号機(エア・フォト・サービス提供)

■肉声

 公開された映像は事故発生の昨年三月十一日夕から同十六日の午前零時すぎまで。三分の二は音声がないため、何が話し合われているのか分かりにくいが、残りは生々しい肉声が残っていた。
 例えば2号機に危機が迫った十四日深夜から十五日未明。本店の幹部からは「ベント(排気)しないと格納容器が壊れる」「余計なこと考えるな。全部責任取るから」と、悲鳴とも懇願とも聞こえる声。これに対し、吉田昌郎所長(当時)は「操作している。ディスターブ(邪魔)しないで」と応じた。
 こうした事故の進展と人の動きは、各事故調の報告書ではとても知ることができない。それだけに重要な資料だが、東電は今のところ十六日以降の映像を公開する予定はない。
 その後に起きた使用済み核燃料プールの危機にどう立ち向かったのか、高濃度汚染水の海洋流出をいつ認識したのか、やや低い濃度の汚染水を意図的に海洋放出した時はどんな議論をしたのか-。こうした疑問に答えるカギは、十六日以降の映像にある。
 公開方法にも問題が多い。視聴は東電本店内に限られ、フリーも含め報道関係者は入れるが、専門家や一般の人は対象外。これでは多角的に検証されることにはならない。

■分析

 東電が提供したテレビ会議の映像データを専門家に見てもらった。
 エネルギー総合工学研究所の内藤正則部長(原子力安全解析)は、原子炉の冷却ができなくなった2号機の対応をめぐる東電本店と現場のやりとりから、過酷事故対策に不備があったことが分かる、と指摘した。
 映像には、吉田所長が、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長から直接電話を受け、ベントをする前に原子炉の圧力を下げて注水すべきだと提案されたシーンも記録されている。
 東電は班目氏の提案を受け入れ、SR弁(蒸気逃し弁)を開けようとしたが、作業は難航。原子炉の圧力は高い状態が続き、注水作業は中断を余儀なくされた。
 内藤氏は「SR弁は、原子炉外側の格納容器の圧力が高い状態では開きにくい構造になっている」とし、東電内で懸念の声が出なかったことを問題視した。
 また内藤氏は、官邸側が直接現場に介入したことに触れ、「一刻を争う状況だった。現場指揮官である所長が政府とのやりとりに時間を割かれ、事故の対応に専念できなかった面があることも映像から分かった」と話した。
 東京大の中尾政之教授(機械工学)は「もう少し建設的なやりとりをしていたと思っていた。全然違って残念だ」とあきれた。
 中尾氏は、大破したのに、地上の基地から的確な指示で無事帰還できたアポロ13号を引き合いに、「東電本店は的確な指示ができていないばかりか、現場の要求も聞けていないようにみえる。弁を開けろと言うだけで、足りなかったとされるバッテリーの話も出ていない」と指摘した。


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