溶ける雪 シベリアを襲う洪水<地球異変 迫り来る気候危機>

 雪に覆われた平野に、傾いた家がぽつんと建っていた。人けはなく、少し離れた別の家も廃屋だった。
 ロシア・東シベリアのイルクーツク州トゥルン。世界有数の寒冷地にある地を2月上旬、訪ねた。第2次大戦後、旧ソ連によるシベリア抑留で日本の将兵らが強制労働に就かされた炭鉱の街には、昨年6月の大洪水の爪痕が今も残る。
 例年ならほとんど雨が降らない月にもかかわらず、大雨が二日続いた。街の中を流れる川の水位は10メートルを超え、堤防を越えた水で街が湖のようになった。全世帯の3割に当たる2800軒が浸水、26人が犠牲になり、4人はいまだ行方が分からない。
 連邦政府は緊急事態を宣言し、プーチン大統領が繰り返し視察に訪れた。「こんなひどい洪水は聞いたことがない」。トゥルン市教育事務所職員のナタリアさん(48)は自宅が浸水し、屋根に駆け上がって救助を待ち、難を逃れた。人口4万人のうち、1000人超が街を去ったという。

2019年6月、ロシア・イルクーツク州で、洪水に襲われたトゥルンの街=非常事態省提供

北極圏一部、20年で平均気温3.9度上昇

 「気候変動の結果だ」。大洪水の1カ月後、国際環境団体グリーンピースが声明を出した。根拠は、ロシアの気象情報機関が3年前に出した将来予測。1999年と比べると、ロシアは豪雨など極端な気象現象の件数が3.5倍になり「今後もシベリアなどでは集中豪雨が予想される」と結論づけている。
 多くの気象学者は、地球温暖化が異常気象の一因だと考える。大洪水について、シベリア連邦大のシャラフジノフ教授(環境地理学)は「直接の雨量に加え、温かい雨で上流域の雪が解けたのが増水の原因だ」と説明する。
 同教授によると、ロシアでは、高緯度ほど平均気温の上昇幅が大きく、北極圏の一部地域はここ20年で3.9度も上昇した。氷や雪が解けて世界の海面上昇につながることは知られているが、その前にシベリアの小さな街が洪水という災害に直面せざるを得ない。

ロシアは二酸化炭素の排出削減に消極姿勢

 しかし、温室効果ガスの排出量が世界4番目のロシアは、温暖化対策に消極的だ。二酸化炭素(CO2)を多く放出する石炭や石油は大事な輸出品で、生産量を増やす開発に力を注いでいる。その上、シベリアではCO2を吸収する広大な森林で乱伐が進む。木材需要の高い中国向けの輸出が主で、違法伐採を隠すための放火も相次いでいる。
 昨年12月、海外の研究機関でつくる「クライメート・アクション・トラッカー」が公表した温暖化対策の評価でロシアはパリ協定から離脱通告した米国などとともに最低ランクの「決定的に不十分」とされた。
 1年を通して暖房が必要な寒冷地では、CO2を大量に出す石炭なしでは生活が成り立たない。トゥルンは1世紀以上、採掘した石炭で暖を取り、林業と並ぶ数少ない収入源として頼ってきた。ユーリー・カリフ市長は「われわれは自然と共生してきた」と言った。ただ、シベリアは気候変動の最前線に立たされている。 (トゥルンで、小柳悠志)

トゥルンの市長室で浸水した地区を指さすカリフ市長=小柳悠志撮影

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