愛媛のミカンが消える?<地球異変 すぐそばの温暖化>

 松山市高浜町の斜面にあるミカン畑は瀬戸内海の照り返しの光を浴びていた。昨年12月9日昼、最高気温14.8度。風もなく、ジャケットを羽織れば10分なぽかぽかとした陽気だった。長袖シャツ姿で作業していた農産物販売会社「のうみん」の社長田那部(たなべ)大さん(25)は「昔ならダウンが必要だったが、今はこれで汗ばむくらい」と笑った。
 気象庁によると、松山の平均気温は上昇傾向で、この100年で1.8度上がった。ミカン畑の所有者、農家森茂喜さん(68)は「30年前は温州(うんしゅう)ミカンが凍るのを恐れ、年越し前に収穫を終えていた。今は凍害の心配をしなくていい」と話す。
 ただその一方で、ミカンの実が大きくなる秋以降に気温が下がらず、皮と実の間に隙間ができる「浮皮(うきかわ)」が毎年発生するようになった。皮が破れやすく、輸送中に腐りやすくなる。「味もぼけて、商品にならない」と森さんは嘆く。

ミカン畑で栽培しているアボカドを収穫する田那部大さん。12月が収穫の最盛期という=松山市高浜町で

アボカド転換の試みも

 このため松山周辺では、高めの気温で育てやすい果樹への転換が進んでいる。その1つが中南米原産の「アボカド」。もともとは亜熱帯地域で育ち、国内消費の99%をメキシコなどからの輸入に頼る。
 森さんは1992年春、ミカン畑にアボカドの苗木5本を植えた。台風による塩害で約1ヘクタールのミカンが枯れたため「元通りにしたんじゃ、面白くない」と、育つかどうか分からないアボカドをあえて選んだ。
 5本は冬も枯れずに育ち、10年前後で実がなった。その後に200本に増やした木は4、5年で実をつけ、毎年の収穫量は1トン余りになった。「味が濃厚」と好評で、農家仲間らでつくる「のうみん」でインターネット販売すると、出品して数日で売り切れる。
 行政も動いた。松山市は2009年、アボカドの苗木の配布を開始。温州ミカンで有名な愛媛県だが、18年の収穫量は約11万トンと、最盛期(1975年)の5分の1以下に減った。農家が高齢化し耕作放棄地が増える中、市はアボカドの産地化を目指し、今では約150戸の農家が栽培するようになった。森さんは「高い気温を下げるのは大変」と、昨年には亜熱帯原産のグレープフルーツの木も100本に増やした。

 農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)によると、温州ミカンの栽培に適した年平均気温は15~18度で、関東が北限。しかし03年度に公表した温暖化による影響の予測では、20年代には全国有数の産地がある東海、四国、九州の沿岸部の一部が適地より高温となり、東北、北陸の一部が適地になる。山形県産地研究室は、温州ミカンの北限を目指し試験栽培を続けている。
 温暖化は、リンゴやブドウの色づきが悪くなる影響ももたらしている。同機構の杉浦俊彦.園地環境ユニット長は「暑さに強い品種はあるが、高齢化で植え替えをできない農家もある。温暖化がさらに進めば、対策しても追いつかないかもしれない」と、産地維持の難しさを指摘した。(福岡範行)

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