ふくしまの10年 行ける所までとにかく行こう⑬ やせこけたウシたち

南相馬市小高区の牛舎では、多くのウシが餓死していた(豊田直巳さん提供)

 4日後には東京電力福島第一原発の20㌔圏は警戒区域に指定される。立ち入りが難しくなる前に少しでも多く取材しようと、写真家の豊田直巳さん(63)は2011年3月18日、「山麓線」と呼ばれる県道を南へ急いでいだ。
 南相馬市小高区に入って間もない地点で、牛舎があり、何頭かのウシが外に出て草を食べているのが見えた。県道から続く農道は地割れが激しく、車を降り、歩いて近づいた。
 厚い防じんマスクを通しても、強烈な異臭が鼻を突く。畜産が盛んな福島県の取材で、牛舎特有の臭いにはすっかり慣れたが、それとは明らかに違う。腐敗による臭いに違いなかった。牛舎の裏手も探したが、だれもいなかった。
 予想はしていたものの、牛舎内で直面したのは、衝撃的な光景だった。
 死んでいたのは1頭や2頭ではない。50頭ほどいただろうか。乳牛が牛舎のあちこちでやせこけて横たわっていた。大きな目が乾き、まもなく命が尽きようとしているウシもいた。食べ物を探したのだろう。カセットテープか何か細いテープを引き出して物色した形跡もあった。
つらかったのは、子ウシが死んだ親ウシを揺り動かそうというのか、ぺろぺろなめ続ける姿だった。穴に落ち、動けなくなった子ウシもいた。
 「何もしてあげられることがない。子ウシといっても、とても穴から引き上げられそうにない。おりを開けて放したところで助かりそうにない…」
 豊田さんは自らの無力さに打ちのめされた。
 畜産農家にしても、大切に育ててきたウシたちを置いて避難するしかなかったのだろう。そんな厳しい選択を迫った原発事故へのやり場のない怒りと悲しさが込み上げてきた。

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