「汚染処理水の処分案」に地元・福島の声は

 東京電力福島第一原発の構内タンクで貯蔵を続ける汚染水を浄化処理した後の水を、今後どのように扱っていくのか。政府は処分方針の決定に向け、4月から地元関係者の意見を聴く会合を開いている。福島県内での2度の会合では、海か大気への放出処分案について、環境への影響を不安視する声が相次いだ。自治体の首長たちは処分そのものへの賛否を明言せず、風評被害への対策を求めるにとどまった。(渡辺聖子)

意見表明する浪江町の吉田数博町長=福島県富岡町で(YouTubeの動画より)

浪江町議会は反対決議も、町長は是非明言せず

 4月6、13日の会合で意見を表明したのは、業界団体や地元企業の代表者、内堀雅雄県知事、福島第一が立地する大熊、双葉町を含めた市町村長ら計22人。この中で、浄化処理しても取り除けない放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法について、是非を明確に述べた首長は一人もいない。ほとんどが、国に対し「幅広く意見を聴き、責任を持って決めてほしい」と要望した。
 福島第一から北約8キロ、原発に最も近い請戸漁港がある浪江町。東日本大震災で漁港は被災し、原発事故で全町避難を余儀なくされた。昨年10月に漁港の施設が整い、4月には約9年ぶりに魚市場が再開して競りが復活したばかりだ。
 基幹産業の漁業が復興に進みつつあり、町議会は3月、海洋放出に反対する決議を全会一致で可決。処理水のタンク保管を継続し、トリチウムの除去技術を開発するよう求めた。県内の議会で反対の態度を明確にしたのは浪江町だけだ。
 ところが、吉田数博町長は4月13日の会合で処理水の処分への是非を明言せず、議会の反対決議に触れもしなかった。漁業への影響を懸念し「風評の最大の被害者となりうる可能性がある。復興の芽が芽吹き始めたところで、この芽を枯らしてはいけない。慎重な判断と万全な風評対策を示すべきだ」と述べた。
 吉田町長は本紙の取材に、「町議会の決議内容については承知しているが、今回はあくまで町として意見を述べる場だったので、町の考えについて発言した。町と町議会は両輪として、これからも連携・協力しながら浪江町の復興に当たってまいります」と、メールでコメントした。
 一方、町長が是非を明言しなかったことに、馬場績(いさお)町議は「議会軽視、住民不在。議会の意志を尊重し、明確な発信をすべきだ」と残念がった。
 自らの考えを明言しないながらも、相馬市、南相馬市、富岡町、楢葉町の首長は、これまでの議会での答弁や議員の声を紹介しつつ、意見を述べた。富岡町の宮本皓一町長は、町議会が3月に政府から説明を受けた時のことを振り返り「議員が疑問や不安を抱いていることからも、処理水の議論が尽くされたとは考えてない」とくぎを刺した。

農林水産団体の代表者は放出「反対」

 風評への懸念に終始する市町村長とは対照的に、農林水産団体の代表者は、反対の立場を明確にした。
 政府の小委員会が提言した海洋、大気のどちらの放出にも反対したのは、県森林組合連合会の秋元公夫会長と県農業協同組合中央会の菅野孝志会長。環境への放出処分そのものが、復興への道筋が見えるようになってきたところに水を差す行為だと受け止める。
 海洋放出に反対した県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は、原発事故から9年が過ぎ、漁業者の世代交代が進んでおり「彼らに将来を約束するためにも反対」とし、「海洋には県境がなく、全漁業者の意見を聴いてほしい」と訴えた。
 県旅館ホテル生活衛生同業組合の小井戸英典理事長は「原発事故が収束していない状況下で、さらに放射能をまき散らす行為は到底許容できるものではない」と指摘。その上で「海洋放出が業界にとって最も損失が少ない」とし、放出による影響は「風評被害ではなく実害」と強く主張した。
 県商工会連合会の轡田倉治会長は個人の考えとして「処理水がタンクに残っている限り風評は続く。1日も早く処理して風評をなくしてほしい」と要望した。
 新型コロナウイルスの感染拡大のさなかでも、会合は予定通り開催。県内の会場と東京の関係省庁をテレビ会議システムで結び、意見を聴いている。初回は副大臣ら数人が福島へ出向いたものの、2回目は東京からの出張を中止。次回以降の開催は未定としている。

福島会場とテレビ会議システムをつないで開かれた会合=東京・霞が関の経済産業省で

文書でも意見募る、7月31日まで

 経済産業省資源エネルギー庁は汚染水を浄化処理した後の水の処分について、文書による意見も募集している。募集期間は7月31日(金)まで(必着)。郵送の場合は消印有効。電子メール、FAX、郵送、電子政府の総合窓口で受け付けている。日本語に限る。
 経産省は個別の意見への回答はしないが、後日一括して政府の考え方を公表する。
 詳しくは「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場(経済産業省資源エネルギー庁)」を参照。以下、経産省資料より。

(1)提出用の様式に以下の内容を記載(任意)
・意見提出者の氏名、連絡先(電話番号、住所等)
・職業、勤務先・学校名(個人の場合)
・団体名、団体の所在都道府県(団体の場合)
(2)提出先
・ 電子メール:takakushu-iken@meti.go.jp。件名を「書面による意見提出」と記入。
・FAX:03−3580−0879 廃炉・汚染水対策チーム事務局 宛
・ 郵送:〒100-8931 東京都千代田区霞が関 1-3-1 経済産業省別館5階 526 廃炉・汚染水対策チーム事務局 宛 ※封書に「書面による意見提出」と赤字で記入。
電子政府の総合窓口

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