水素で延命?原子力業界 茨城・大洗、高温ガス炉運転再開へ 大量生産目指す

 茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の「高温工学試験研究炉(HTTR)」で、11年ぶりの運転に向けた手続きが進められている。HTTRは発電と同時に水素を製造する高温ガス炉の実験炉で、機構は将来的に原子力による水素の大量生産を目指す。ただ、「クリーンエネルギー」のイメージがある水素を隠れみのに、原子力業界の延命を狙う思惑も透ける。(宮尾幹成)

HTTRの外観。現在、ガスタービン発電や水素製造の設備はないが、実用化に向けた研究に備え建設用地は確保している=茨城県大洗町で(日本原子力研究開発機構提供)

目玉政策

 「大きな被害を受けた福島から、未来の『水素社会』に向けた新しい1ページが開かれようとしている」
 安倍晋三首相は3月7日、東京電力福島第一原発事故で全域に避難指示が出た福島県浪江町を訪れ、新たに建設された世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所式で、そう胸を張った。
 かつて原発建設予定地だった18万平方メートルの土地に敷き詰めた約6万8000枚のソーラーパネルで発電。水を電気分解し、1日に燃料電池車(FCV)約560台を満タンにする水素を製造できるという。
 安倍政権は2017年、「世界に先駆けて水素社会を実現する」とした「水素基本戦略」を策定し、「水素社会」を政権の目玉政策として掲げている。

HTTRの原子炉格納容器内にはガスの配管が張り巡らされている。左側が圧力容器で、中に核燃料が入っている=茨城県大洗町で

用地確保

 太陽光などの再生可能エネルギーだけで「水素社会」に必要な水素を確保できるなら、「クリーン」かもしれない。だが、実現性はあるのか。
 「『走る原発』エコカー 危ない水素社会」の著書がある上岡直見・環境経済研究所代表の試算では、FCVが最大限普及した場合、宮城、秋田、山形三県の全水田面積に相当する土地にソーラーパネルを設置しなければならない。大規模な産業利用を想定すれば、全国の宅地面積の2倍以上の土地が必要になる。
 そこで浮上するのが高温ガス炉だ。民主党政権時代のエネルギー基本計画では姿を消していたが、安倍政権が改定した現行の計画で、水素製造などの産業利用が見込める新型炉として復活。原発の再稼働や新増設が進まない中、原子力業界の期待を集める。
 高温ガス炉では核燃料の冷却に、通常の原発で用いる水より高温の熱を伝えられるヘリウムを使う。高効率のガスタービン発電と、1000度近い熱を利用した「熱化学法」による水素製造を両立する構想だ。
 HTTRは高温の熱を安定して作る研究などを目的とした熱出力3万キロワットの実験炉で、タービンや水素製造設備を持たないが、実用化に向けた次の研究に備え、建設用地は確保している。
 機構は、60万キロワットの実用炉ができれば、1基でFCV63万台を日常的に動かせる水素の供給力があるとアピールする。

福島以前

 高温ガス炉では、ヘリウムが漏れても核燃料は自然冷却し、原発のような炉心溶融事故は起きないとされる。
 だが、核分裂するウランを燃やすことに変わりはない。使用済み核燃料は海外で再処理し、取り出したプルトニウムなどを再利用する方針だが、それに伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分先は未定だ。
 高温ガス炉に固有のリスクも。水素製造設備では、原子炉内で生じたトリチウム(放射能を帯びた水素)が製品の水素に混入する恐れがあるほか、水素漏えいによる爆発事故で原子炉施設を傷つける可能性も指摘されている。
 上岡氏は、高温ガス炉の開発に突き進む原子力業界を「『水素社会』のプラスのイメージだけを膨らませ、舞台裏では原子力の温存に結び付けて福島以前の状態に戻そうとしている」と批判する。

4月24日まで意見公募 実験炉では異例

  HTTを巡っては、原子力規制委員会が3月25日の定例会合で、安全対策の内容をまとめた「審査書案」を了承。事実上の新規制基準「適合」となった。4月24日まで、審査書案についてパブリックコメント(意見公募)中だ。
 実験炉では、原則として意見公募をしないが、複数の委員から「高温ガス炉は初めてなので行うべきだ」との声が挙がり、実施することにした。
 応募手段はインターネット、郵送、ファクスの3通り。いずれの場合も、規制委のホームページの「手続き・申請」から「パブリックコメント」にアクセスし、リンク先の「電子政府の総合窓口」に入る。
 ネットでは「意見提出フォームへ」をクリックし、必要事項を記入して送信。郵送やファクス=03(5114)2191=の場合は、「意見提出用紙」をダウンロードして印刷する。宛先は〒106−8450東京都港区六本木1の9の9 六本木ファーストビル 原子力規制庁研究炉等審査部門へ。
 規制委は意見公募を終えてから、審査書を正式決定する。日本原子力研究開発機構は必要な工事を完了させた後、2021年1月の運転再開を目指している。

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