<新型コロナ>福島第一原発に危機感 電力各社が念入り対策

 新型コロナウイルスの感染拡大に、原発を保有する電力会社が神経をとがらせている。原発で働く人に感染がまん延すれば、運転を続けられなくなる可能性があるためだ。福島第一原発では、事故収束作業の長期間停止を避けようと、東京電力が特に念入りに対策を講じている。政府の緊急事態宣言を受け、原発再稼働の前提となる原子力規制委員会による審査会合もテレビ会議方式となり、人と人との接触を減らす取り組みが進む。 (渡辺聖子、福岡範行)

出張禁止、視察も中止に

 1日に4000人以上が働く福島第一原発では、ひとたび感染者が出てまん延すれば、24時間体制で進む事故収束作業に多大な影響が出る。感染者を出さないよう対応を強化している。
 「イチエフ(福島第一原発)の人間に首都圏に行かないようお願いした」
 東京都などが不要不急の外出自粛を要請した2日後の3月27日、福島第一廃炉推進カンパ二ーの小野明・最高責任者は会見で危機感をあらわにした。
 東電は2月下旬から、対策に取り組んできた。1~3号機の原子炉内に溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)と使用済み核燃料プールに保管する核燃料の冷却、汚染水処理の業務継続を重視するためだ。
 主な建物の入り口に赤外線サーモグラフィーを設置し、体の表面温度が37.5度以上の人は入館を拒否できるようにした。万が一に備え、交代要員のリストアップも進める。
 来訪者にも目を光らせる。視察者の受け入れを止め、その拠点である福島県富岡町の「廃炉資料館」を閉館。社員にはメーカーや下請け企業との面会を自粛させ、出張も禁止した。14日時点で、感染が確認された人はいないという。

多くの人が出入りする新事務本館では、入館者の体温を赤外線サーモグラフィー(右)でチェックしている=福島第一原発で(東京電力提供)

福島第一の組織再編にも影響

 影響は、4月の組織改編にも及んでいる。相次ぐ作業ミスを受け、東電は福島第一の勤務者を増やした。しかし、東京から福島第一へ異動した91人と新入社員42人は4月10日まで、現場社員や作業員と接触させない対応を取った。
 東京からの異動組は、専用バスで出勤し、本来の職場である新事務本館ではなく隣の建物で勤務。福島第一で勤務を続けてきた職員や作業員と接触しないよう、食堂の場所も区切った。一部には寮での在宅勤務も認め、打ち合わせなどはオンライン会議を取り入れた。広報担当者は「福島県内でも感染者が増えてきている」と不安を口にする。
 東電以外の電力会社も、同様の対策を講じている。稼働中の原発を持つ関西電力や九州電力では、運転に携わる社員に感染者が出た場合、経験者の派遣を想定。運転の計器がある中央制御室の消毒を徹底し、入室者を限定している。
 北海道電力は、政府の緊急事態宣言の対象地域からの来訪者が、泊原発に入ることを原則禁じている。広報担当者は「いつ感染者が出るか分からない」と危機感を募らす。
 各社は、原発に併設する見学施設を休館している。

福島第一原発の視察者の受け入れ拠点である東電廃炉資料館も閉館し、一般見学もできない=福島県富岡町で

社員や作業員がGWに福島県外に出た場合、2週間自宅待機

 東電は4月30日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、社員や下請け企業の作業員がゴールデンウィーク(GW)期間中に帰省などで福島県外に出た場合は、5月11日から2週間は自宅待機とし、福島第一原発に入ることを禁じると発表した。
 4月8日〜5月10日の行動履歴を作成して、仮に感染者が出た場合の感染経路調査をしやすくするという。

規制委の審査会合はテレビ会議方式に

 100人ほど傍聴できる東京・六本木の規制委の会議室が、いつになく広い。普段なら十数人同士で向き合う審査会合の出席者は規制委側だけ。審査を受ける事業者側は、大型テレビに映し出された。一般の傍聴者は室内ではなく、動画サイトの生中継で議論を見守る。
 原発などが新規制基準に適合しているかを審査する会合は、事業者と対面で行ってきた。しかし、各地から担当者を東京に呼べば、感染を広げかねない。
 規制委は3月からインターネットを通じたテレビ会議システムを10セット準備。2012年の規制委発足以来、透明性を重視して審査会合の生中継を続けているため、声が聞きづらくないよう事業者にマイク購入を頼むなどした。
 4月14日には初めて、テレビ会議方式で実施。音声が乱れがちで、規制委側が「ゆっくりとしゃべって」と促す場面や通信不良があり、手探りのスタートとなった。
 テレビ会議の方が断層の図の細かい疑問点を確かめやすいなど利点も。森下泰原子力規制企画課長は「今後の仕事のやり方が変わる気がしている」と語る。
 事務局の原子力規制庁職員は3月30日から原則在宅勤務で、各原発への出張は禁止。部署ごとに2班に分けて接触を減らし、事故時に担当者が不在とならないよう備える。
 緊急事態宣言後、毎週開いていた規制委の定例会や更田豊志(ふけた・とよし)委員長の会見は隔週に。更田委員長は「多くの方が不安を持つときは、会見をするべきだ」とし、原発での感染拡大時などは臨時会見する。

テレビ会議方式で初めて行われた規制委の審査会合。事業者側はテレビに映し出された=東京都港区六本木の規制委で

東電会見、本社内での対応は中止

 東京電力は緊急事態宣言を受け、毎週月・木曜の福島第一原発の定例会見で、東京本社内での対応を中止した。4月13日からは、本社近くの貸し会議室で記者たちの質問に応じている。

東電会見は本社から近い別の施設で記者対応する=13日午後、東京都千代田区内幸町で
2020年4月14日時点の全国の原発の状況

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