水素社会 試される再エネ政策<地球異変 挑戦する福島>

 雑木林を抜けて海沿いの高台に着くと、太陽光パネルが一面に広がった。それに囲まれるように、新しい建物とタンクが白く光る。
 福島県浪江町の北部、東北電力が原発建設を断念した広大な敷地(18万平方メートル)に完成したのは、「福島水素エネルギー研究フィールド」という世界最大級の水素製造拠点だ。

大規模太陽光発電所に囲まれた水素製造拠点=先月、福島県浪江町で、本社ヘリ「おおづる」から

 東京電力福島第一原発事故から9年を前にした7日、敷地内での開所式。新型コロナウイルス感染症で自粛ムードが広がる中、安倍晋三首相が駆け付けた。水素で走るトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)ミライのハンドルを自ら握り、宣言した。「原発事故で大きな被害を受けた福島から、水素社会の新たなページが開かれようとしている」
 施設は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や東芝エネルギーシステムズと東北電、産業ガス大手の岩谷産業が約200億円かけて整備。うち100億円を国費が占める。約6万8000枚の太陽光パネル(計2万キロワット)で生み出した電力で、水を電気分解し水素ガスを作る。1日で、FCV560台を満タンにできる量を製造できる。
 水素は、電気を持ち運べるエネルギーに変換したものだ。浪江の水素ガスは、3月26日からの東京五輪聖火リレーでトーチの燃料となり、大会中は圧縮して注入した大型ボンベがトレーラーで選手村に運ばれ、燃料電池バスなどに使われる。政府がいう「復興五輪」でデビューを果たす。

福島水素エネルギー研究フィールドの開所式でテープカットする安倍首相(中)ら=3月7日、福島県浪江町で

 安倍政権は2017年末の「水素基本戦略」で、水素を再生可能エネルギーと並ぶ新エネルギーの選択肢として位置付けた。FCVの普及や水素の輸送・貯蔵技術の進展なども掲げる。
 水素製造には大量の電気が必要で、製造コストが高い。石炭火力発電が使われたりしているが、浪江の施設のように二酸化炭素(CO2)を排出しない再生エネの電気を大規模に利用する例はない。NEDOの大平英二統括研究員は「将来、化石燃料が使えない社会が来る。水素社会に必要な知見と製造コスト削減策を探りたい」と話す。
 しかし、水素が主役になる日は遠い。太陽光や風力など天候に左右される電力が大量に「余剰」とならないと、発電より製造コストの方が高く、エネルギーを転換して蓄積する利点を生かせないためだ。再生エネの課題を研究する安田陽・京都大特任教授は「国際的には、水素が必要となるのは再生エネの導入が80%程度になってからだ」と指摘する。
 日本の電源構成の再生エネ比率は約16%(17年度、資源エネルギー庁調べ)。地球温暖化を防ぐため再生エネの普及が不可欠とされるが、30年度の目標は22~24%にとどまる。安田氏は「まず高い再生エネ目標を掲げないと。優先順位を間違えれば、水素開発が世界標準から外れたガラパゴス技術に陥るか、研究成果が宝の持ち腐れになりかねない」と警鐘を鳴らす。
 浪江町の吉田数博町長は開所式で「CO22フリーの水素を町づくりに活用したい」と語った。一部地域の避難指示解除から3年、町民の約7%しか戻っていない状況で新産業への期待は大きい。原発から水素に移った国策の舞台で、小さな芽は育つのか。政府のエネルギー政策が問われている。 (石川智規)

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