ふくしまの10年 詩になったアナウンサー ①励まし続けた12時間

 11日の昼下がり、福島県浪江町の木造平屋建てのカフェ「OCAFE(オカフェ)」は、柔らかなピアノの音色に包まれた。東京電力福島第一原発事故で避難を余儀なくされた一家が自宅の倉庫を改造して生まれた交流の場所。コンサートの主役となったのは傷だらけのグランドピアノだ。元ラジオ福島アナウンサーの大和田新(あらた)さん(64)が司会を務めた。
 「ハード面が整ってきたという報道がされていますが、故郷に帰れない人がまだ4万人もいます。見えないものも見て行きましょう」という大和田さんのあいさつで始まった。
 途中、サプライズもあった。Kiroroの金城綾乃さんが、このピアノをテーマにした曲を作ったという連絡が前日、大和田さんのもとに入ったという。一番の歌詞が入った曲の録音が披露され「二番以降は福島の人たちが作ってほしい」というメッセージが伝えられた。
 ピアノはKiroroと縁がある。東日本大震災当日の2011年3月11日、福島県いわき市平薄磯の豊間中学校の卒業式で、Kiroroの「未来へ」が弾かれた。その三時間後、津波にのまれた。生徒は全員無事だったが、地区では100人以上が犠牲となった。
 体育館のがれき撤去を指揮した自衛隊の山口勇三等陸佐は復興のシンボルとしてピアノを救いたいと考えた。山口さんといわき市の調律師、遠藤洋さん(61)を引き合わせたのが大和田さんだった。遠藤さんが半年がかりで一万個もの部品を修理し今では「奇跡のピアノ」と呼ばれている。
 九年前のこの日、大和田さんは夕方から福島市にあるラジオ福島のマイクの前に座り、避難所や停電となった家でラジオを聴く人々を励まし続けた。次の日の夜明けまで、12時間以上に及んだ。(井上能行)

津波被害から復活した「奇跡のピアノ」での演奏を前に、黙とうを行う参加者=11日午後2時46分、福島県浪江町で
コンサートを前にあいさつする元ラジオ福島アナウンサーの大和田新さん
3・11を励まし続けた夜~詩になったアナウンサー ラジオ福島

上ずる声で現実伝え

 地震の影響で電話はつながりにくくなっていた。ラジオ福島では、メールでの情報提供を呼び掛けた。アナウンサーの大和田新さん(64)はそれを「元気メール」と名付けた。
 「私はペットと車の中です。コンビニの店員さん、本当にありがとうございます。ラジオからの情報も頼りです」などの声が次々寄せられた。それらを読み上げるとともに「不安だと思いますが、共に手を携えて。必ず、朝が来ますから、この危機を乗り越えていきたいと思います」と励ましの言葉を添えた。
 通信社からの原稿も読んだ。「このニュースには仙台市の海岸に遺体が二百人から三百人と書いてあるんですが、信じたくないですね」。時々、声が上ずり、次の言葉が続かない時もあった。
 福島市在住の詩人和合亮一さん(51)もラジオを聴いていた。「余震もまだまだ続くので、ずっと車の中にいたんです。カーラジオを一晩中聴いていました。大和田さんが泣いているのを聞いて、僕ら家族も泣いたんです」。のちに、この夜の放送を詩にした。
 福島県郡山市の18歳の女性からのメールを読む時にも大和田さんの声は詰まった。「余震が続く中、ラジオを聴いて夜を過ごすことができました。本当に勇気づけられました。不安ばっかりですが、少しでも人の役に立てるように行動していきたいと思います」
 わずかな沈黙の後「こういう若い方が福島県を支えてくれると思います」とコメントした。
 震災時、福島県内のメディアでもっとも勇気づけられ、感動したメディアはラジオ福島という調査結果もある。
 「この朝が復興への、未来への、第一歩となるように」とKiroroの曲「未来へ」をかけたのは3月12日午前6時前だった。
 外は雪景色に変わっていた。復興へ向けての夜明けのはずだった。(井上能行が担当します)

邂逅 Ⅴ    和合亮一

  1
声を振り絞る
3月11日の夜
あなたはスタジオのマイクの前でひたすら
情報を まず 情報を
次々に飛び込んでくる
 悲しい震災の
真顔と 横顔を
伝え続けた

11日から12日へ
あなたは話すことを止めなかった
無我夢中で 当時のことは覚えていない
と言っていたが
私は覚えている
暗闇で震えながら
家族と夜空を見つめていたから
覚えている

あなたの声に
とても励まされたことを
「みなさん 頑張って いきましょうね」
と言った その後

「仙台市若林区では300人の遺体が発見されました」
と そう告げた 夜更け

私は聞いていた あなたが
声を詰まらせて
しばらく 語り出せなかったことを

どれほどあなたの声に
涙ぐんだことだろう

あなたの言葉と
涙のとぎれめに

この震災は
何を私たちに教えるというのでしょうか

長期の連載がスタート 毎週火曜~土曜に掲載

 震災から10年目の時を歩み始めた福島の人々の思いを日々伝える「ふくしまの10年」を始めます。火曜日から土曜日の週5回。10年を迎える来春に向けて続けていきます。

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