東京湾 南海の光景<地球異変 すぐそばの温暖化>

テーブル状のサンゴが増え、サイズも大きくなっている。その一方で海藻が姿を消した=2019年12月27日、千葉県館山市の東京湾・波左間沖で(尾崎幸司さん撮影)

 海底の岩の上にイボがにょきにょきと生え、明るい緑色をした丸いテーブルのようなものが見える。2、3メートル進むごとに、一つ、また一つ-。大きいものは直径が85センチを超え、周りを青い小さな魚が泳ぐ。
 東京湾の玄関口、千葉県館山市の波左間(はさま)漁港から300メートル。パソコンの画面に映る水深3~5メートルの浅瀬には、南の海と見まがうような光景が広がっていた。
 テーブルのように見えるのはエンタクミドリイシというサンゴだ。もともとは九州西方の暖かい海に生息する種で、館山沖で初めて確認されたのは2007年11月28日。当時は二つだけで、直径20センチにも満たなかった。09年に水温低下でいずれも死んだことが確認されたが、10年で海の中は一変していた。
 「数だけじゃなく大きいものが増えていて、驚いたよ」。昨年12月27日、海に潜って撮影した水中カメラマンの尾崎幸司さん(75)=東京都江戸川区=は興奮した様子で話した。

1998年に撮影された波左間沖の海底は海藻が茂っていた=尾崎さん提供

水温上昇 サンゴ増え、海藻消えた

 エンタクミドリイシは、徐々に生息域を北に広げてきた。国立環境研究所(茨城県つくば市)の熊谷直喜研究員によると、1979年に三重県の紀伊半島沖で確認。暖かい黒潮に卵がのって北上を続け、30年の間に350キロ離れた海域を新たなすみかとした。
 背景にあるのは海水温の上昇だ。気象庁によると、日本近海の平均水温は過去100年で1度超上がった。この日の水温は、冬にもかかわらず20度もあった。
 「サンゴは、温暖化の度合いを如実に示す生き物です」。サンゴ研究者の東京大大学院の茅根創(かやね・はじめ)教授は言う。陸上で1、2度気温が上昇しても生物への影響は見えにくい。しかし海の中では1、2度の変化が生き物の生活を直撃し、特にサンゴは敏感に反応する。
 動物であるサンゴは、光合成するごく小さな植物と支え合って生きる。水温が高い状態が続くと、その植物が離れて骨が透ける「白化」現象が起き、長く続くとサンゴは死ぬ。日本でも沖縄本島や石垣島周辺で大規模な白化が起きている。茅根教授によると、平均水温が2度上がれば、今の生息域では毎年のように白化し、生きていけないという。
 サンゴの北上は、より適した水温を求める動きといえる。ただ、サンゴが移った海域では、別の変化が起きている。「サンゴが増える場所では、海藻が減り、熱帯地域のような海になる傾向があります」。環境研の熊谷研究員はそう話す。水温が上がると、コンブなどの海藻は成長できなかったり、活発になった魚に食べられたりする。こうして九州や四国の一部では既に海藻が消滅し、サンゴだけとなった場所がある。
 東京湾でも同じ現象が起きていた。館山でダイビングショップを経営し、毎日海に潜る荒川寛幸さん(81)は「ここ5、6年で、カジメ(海藻の一種)が完全になくなったよ」と嘆く。カジメを餌にするアワビなども激減した。ウエットスーツ姿の荒川さんが白波の立つ海を見ながら言った。
 「きれいなサンゴは増えているけど、将来、砂漠のような海になってしまうかもなあ」(小川慎一)

※東京新聞2020年1月4日朝刊掲載

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