伊方原発の運転再び認めず、「地震、火山の想定不十分」と広島高裁仮処分決定

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転禁止を求めて、50キロ圏内に住む山口県東部の三つの島の住民3人が申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高裁(森一岳裁判長)は1月17日、運転を認めない決定をした。「四国電の地震や火山リスクに対する評価や調査は不十分だ」とし、安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断は誤りがあると指摘した。

四国電力伊方原発3号機=愛媛県伊方町

 運転禁止の期間は、山口地裁岩国支部で係争中の差し止め訴訟の判決言い渡しまでとした。
 伊方3号機の運転を禁じる司法判断は、2017年の広島高裁仮処分決定以来2回目。伊方3号機は現在、定期検査のため停止中で、1月15日にはプルサーマル発電で使い終わったプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の取り出しを完了した。4月27日に営業運転に入る計画だったが判決の見通しは立っておらず、運転再開は当面できない状態となった。原発再稼働を進める国の方針にも影響しそうだ。
 主な争点は、耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)や、約130キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラの火山リスクの評価が妥当かどうかだった。
 森裁判長は、原発の危険性検証には「福島原発事故のような事故を絶対に起こさないという理念にのっとった解釈が必要なことは否定できない」と言及。四国電は伊方原発がある佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価は必要ないとしたが、「敷地2キロ以内にある中央構造線が横ずれ断層の可能性は否定できない」とし、調査は不十分だとした。
 火山リスクについても「阿蘇カルデラが破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮するべきだ」とし、その場合でも噴出量は四国電想定の3~5倍に上り、降下火砕物などの想定が過小と指摘。その上で、原子炉設置変更許可申請を問題ないとした規制委の判断は誤りで不合理だと結論付けた。
 四国電は決定に対し、異議申し立てをする方針を明らかにした。今後、広島高裁の別の裁判長による異議審で決定の是非が判断される見通し。
 2019年3月の山口地裁岩国支部決定は、地震動や火山リスクの評価に不合理な点はないとし、申し立てを却下。住民側が即時抗告した。岩国支部の訴訟は2月28日に次回口頭弁論予定だが、判決期日は未定となっている。17年12月の広島高裁決定は、阿蘇カルデラで破局的噴火が起きた場合のリスクを指摘し、運転差し止めを命じたが、18年9月に同高裁の異議審で取り消された。

【解説】原発の危険性直視

 想定を超える地震や火山の噴火があれば、原発の非常用設備は損傷し、火山灰に埋もれて使えず、事故収束作業は進まなくなる。日本一細長いとされる佐田岬半島に立地する四国電力伊方原発3号機が重大事故に陥れば、放射性物質による被害は海を越えて広範囲、かつ長期間に及ぶ。
 原発の運転禁止を仮処分決定で命じた広島高裁は、原発が抱える危険性を直視した。四国電力が想定するリスクと対策を「問題なし」とした原子力規制委員会の判断は「不合理だ」とし、疑問さえ投げかけた。
 高裁決定は、地震を引き起こす活断層の有無と火山噴火による影響の想定が不十分であることを指摘した。ところが、規制委の広報担当者は決定内容を把握せぬまま「審査は常に適切で、内容の見直しはない」と言い切った。電力会社を監督する立場の梶山弘志経済産業相は「世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合した原発の再稼働を進めていく」と強調した。
 司法判断をないがしろにする規制委と経産省。その姿勢からは、今も事故収束作業が続き、多くの住民が避難を強いられている東京電力福島第一原発事故の反省が見えない。(小川慎一)

阪神大震災25年の日に伊方3号機差し止め

 四国電力伊方原発3号機の運転を認めない広島高裁(森一岳裁判長)の決定に、原告団や支援者から歓声が上がった。阪神大震災から25年を迎えた1月17日、司法が指摘した地震や火山のリスクは、災害多発国家の現実だった。

広島高裁が伊方3号機の運転を差し止める仮処分を決定し、垂れ幕を手に喜ぶ住民側関係者。四国電は不服申し立てをする方針を明らかにした=17日午後2時3分、広島市

「地震リスクを強く警告」「貴重な決定」と原告団ら

 「やったー」「うれしい」。17日午後2時すぎ、伊方原発3号機の運転差し止めを命じる仮処分決定が伝えられると、広島高裁(広島市)の前に集まった原告団や支援者らから歓声が上がった。ガッツポーズや握手をして喜び合い、勝利を祝う歌声を響かせた。
 「決定理由は地震と火山の両方。全面勝訴と言っていい」。高裁から出て来た弁護団共同代表の中村覚弁護士(62)が宣言すると、大きな拍手が湧き起こった。
 中村弁護士は「阪神大震災から25年目の日に、いつどこで大きな地震が起きてもおかしくないということを裁判所が強く警告してくれた」と強調。平岡秀夫弁護士(66)も「本当に貴重な決定」と意義を訴えた。
 市内で開かれた記者会見では、本訴の原告団副団長の窪田伸子さん(58)が「地震大国に住んでいる私たちは、常に原発の危険にさらされている。経済発展だけではない、真に豊かな社会をつくることこそが求められている」と語気を強めた。
 一方、四国電の佐川憲司原子力部副部長(51)は記者団に、「原発はコスト的に化石燃料より競争力があり、重要な電源。安全性を一般の方々に伝えていきたい」と厳しい表情で語った。

森一岳裁判長、民事のベテランで1月下旬に定年退官

 伊方原発3号機の運転差し止めを認める決定を出した広島高裁の森一岳(もり・かずたけ)裁判長(64)は、岩国基地(山口県岩国市)の騒音訴訟など民事訴訟を多く手掛けるベテラン裁判官。1月下旬に定年での退官を迎える。
 東京都出身。1982年に裁判官となり、東京高裁判事や千葉地、家裁松戸支部長などを歴任。2016年4月から現在の広島高裁部総括判事となった。
 16年10月に裁判長を務めた「一票の格差」訴訟では、最大3.08倍で実施された同7月の参院選の格差を違憲状態と判断した。
 音声証拠の再生中に接見を打ち切った広島拘置所の対応を巡る訴訟の控訴審判決では19年3月、一審判決を変更して接見交通権の侵害と判断、国の通知も違法と結論付けた。

決定要旨

 四国電力伊方原発3号機の運転を差し止めた1月17日の広島高裁の決定要旨は次の通り。
【主文】 第一審判決の言い渡しまで、伊方原発3号機を運転してはならない。

【司法審査の在り方】 伊方原発から約30数~40数キロの距離に住む抗告人らは、放射性物質が放出される事故が起きた際、重大な被害を受けると想定される地域に住む者といえる。そのため、被害を受ける具体的な危険がないことは四国電が立証する必要がある。新規制基準に不合理な点がなく、伊方原発が審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないと示すことで立証できる。

【地震に対する安全性】 伊方原発近くの中央構造線断層帯の震源断層について、四国電は不確かさを考慮して基準地震動を策定しているが、地震動評価でその影響はなく、規制委の判断が不合理とは言えない。
 四国電は詳細な海上音波探査をし、佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の評価は必要ないとして地震動評価を行っていない。中央構造線断層帯長期評価(第二版)には、佐田岬半島沿岸に存在すると考えられる中央構造線を「現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」と記載があり、海上音波探査では不十分なことを前提にしていると認められる。
同長期評価の記載などを考慮すると、中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できない。その場合、地表断層から伊方原発敷地までの距離は2キロ以内で、仮に十分な調査で活断層だと認められた場合、地震動評価をする必要がある。しかし、四国電は十分な調査をしないまま原子炉設置変更許可申請し、規制委は問題ないと判断した。規制委の判断には、その過程に過誤や欠落があったと言わざるを得ない。

【火山事象の影響による危険性】 新規制基準のうち、火山ガイドは火山の危険性を立地評価と影響評価の2段階で評価することとしている。立地評価のうち、検討対象火山の噴火時期や程度が相当前の時点で予測できるとする部分は不合理である。過去最大の噴火規模である阿蘇四噴火から判断すると、その火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできない。
 阿蘇4噴火のような破局的噴火の発生頻度は極めて低く、火砕流が到達する可能性を否定できないからといって、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する。
 破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火、噴出量が数10立方キロメートルの噴火規模を考慮すべきで、その噴出量を20~30立方キロメートルとしても、四国電が想定する約3~5倍に上る。四国電の降下火砕物や大気中濃度の想定は過小で、それを前提とした申請および規制委の判断は不合理である。

【保全の必要性および担保の要否】 伊方原発は現在稼働中で、その運用で抗告人らは重大な被害を受ける具体的な危険があり、保全の必要性が認められる。現在の科学技術水準では火山の噴火時期や規模は予測できても数日から数週間程度前にしかできないから、確定判決前にそのような事態が生じることもあり、保全の必要性がないとは言えない。

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