吉田調書要旨(上) 11日 冷却装置作動思いこみ 12日 1号機爆発大きな盲点

 11日公開された政府事故調査・検証委員会による東京電力福島第一原発の吉田昌郎(まさお)所長の「聴取結果書(吉田調書)」。原発の状況が刻々と悪化する中、吉田氏は焦りや、厳しさを理解しない政府や東電本店への怒りを率直に語っている。(肩書はいずれも当時)

<2011年3月11日14時46分、東日本大震災が発生>

 -津波が来る前、配管の水漏れや、平時と異なる事象はあったのか。
 「基本的にほとんどなかったです。水漏れとか機器の損傷とか、私は全く聞いておりません」
 -危機感はあったか。
 「すごく強く持っていました。DG(非常用ディーゼル発電機)が動いたので、ほっとしたんですね。こんな大津波が来るとは思っていないんですけれども、当然、津波が来る可能性はある。海水ポンプによる冷却が、引き波で使えなくなってしまうのが、怖いんですけれども。電源を使わないICやRCIC(いずれも非常用冷却装置)が動いているということで、プラントは一定のセーフ(安全)はされているという安心感はあった」
 -津波が来たことは、すぐに分かるのか。
 「海の情報が(現地対策本部の)円卓からはわからない。外が見えないですから。異常が起こったのは(十五時)三十七分の全交流電源損失が最初でして、DG動かないよ、何だという話の後で、津波が来たみたいだという話で、この時点で『えっ』という感覚ですね」
 「はっきり言って、まいってしまっていたんですね。シビアアクシデント(過酷事故)になる可能性が高い。大変なことになったというのがまず第一感」
 -どう対応しようと。
 「絶望していました。どうやって冷却するのか検討しろという話はしていますけれども、考えてもこれというのがないんです。DD(ディーゼル駆動の消火ポンプ)を動かせば(炉に水が)行くというのは分かっていて、水がなさそうだという話が入り、非常に難しいと思っていました」
 <大震災初日、早くも1号機は炉心溶融という重大事態に陥った。吉田氏ら現地対策本部は、動いていないICを、動いていると誤認していた>
 -二十二時ごろ、ICは作動していたと認識か。
 「そうです。1号機は水位があるという報告があったものですから、ICは働いていると思っていた」
 「思いこみがあった。発電班長から情報は出てこないんです、当直長から発電班長に情報が行っていたのかもよく分からないんです。本当は、その時点でICは大丈夫なのかということを何回も私が確認すべきだった。水位がある程度確保されているから大丈夫かなと思っていた部分があります。こちらから聞かなかったことに関して、今、猛烈に反省している」
 -1号機原子炉建屋の放射線量が上昇している。
 「水位だけを見ているとあるんだけれども、何か変なことが起こっていると。ICが止まっているのか、要するに冷却源がなくなっている状態かなというふうに思い始めている」
 -水位計がおかしいと思ったのは。
 「線量が上がってきて、おかしいと。放射性物質が外に出るということは、圧力容器から漏れて、その漏れたものが、格納容器から漏れているようにしか考えられない。水位があって、漏れることはまずない。燃料損傷に至っている可能性はあるなと」

<1号機の状況は悪化。12日にはベントを迫られた>

 「私もこの事象に初めて直面しているので、はっきり言って分からないんですよ。AO弁(空気作動弁)のエアがない、もちろんMO弁(電動駆動弁)は駄目だと。手動でどうなんだと言うと、線量が高いから入れない」
 -十二日六時五十分に、経産相からベント実施命令が出たが経過は。
 「知りませんけれども、こちらでは頭にきて、こんなにはできないと言っているのに何を言っているんだと。命令出してできるんだったらやってみろと」

<その後、菅直人首相がヘリで福島第一に到着>

 -首相は何の話を。
 「かなり厳しい口調で、『どういう状況になっているんだ』と聞かれたので、『要するに電源がほとんど死んでいます。制御が効かない状態です。津波の高さも分かりません、津波で電源が全部水没して効かないです』という話をした。『ベントどうなった』というから、『われわれは一生懸命やっていますけれども、現場は大変です』という話はしました」
 -首相が来たことで、ベントが遅れたか。
 「全くないです。早くできるものは(首相のヘリに汚染蒸気を)かけてしまったっていいじゃないかぐらいですから」

<現場の奮闘にもかかわらず、ベントは遅れた>

 「手動でやるしかないと、腹を決めてやったのが午前九時なんです。被ばくさえすれば、何とかできるかと腹をくくってやったんだけれども、ベント弁には近づけなかった」

<十二日早朝、消防車により1号機に淡水注入が始まったが、次第に枯渇>

 -最初の海水注入の指示はいつか。
 「午後から淡水がなくなるから海水注入をする準備をしておきなさいということは言っておりました。3号機の逆洗弁ピット(堀)に津波の海水が残っていると、かなり量があるということを聞いて、そこから取るしかないなと、海水注入の指示の前に検討して決めていた」
 -海水注入を聞いたことはあったか。
 「まずないです。世界中でそんなことをしたことは一回もありませんから。ないんだけれども、冷やすのに無限にあるのは海水しかないですから。淡水はどこかで尽きるのは決まっていますから、もう海水を入れるしかない。ですから、私がこのとき考えたのは、格納容器の圧力を何とかして下げたい、原子炉に水を入れ続けないといけない、この二点だけなんですよ」
 -海水を入れると機器が全部使えなくなってしまうので、お金がかかる。何とか淡水でやれるところまでやり切らないといけないのではないかという考えはあったか。
 「全くなかったです。もう燃料が損傷している段階で、この炉はもうだめだと。だから、あとはなだめるということが最優先課題で、再使用なんて一切考えていないですね」

<ベントが成功、海水を注入しようとした直後、1号機で水素爆発>

 -水素爆発の可能性は全く考えなかったのか。
 「われわれは思い込みが強いんですけれども、格納容器の爆発をすごく気にしたわけです。今から思えばあほなんですけれども、格納容器が爆発するぐらいの水素、酸素が発生しているのに、それが建屋にたまるところまで思いが至っていない。今回の大反省だと思っているんだけれども、思い込みが、あそこが爆発するとは思っていなかった。原子力屋の盲点、ものすごい大きな盲点」
 <夜までにホースをつなぎ直し、海水を注入し始めたところで、官邸からストップがかかる>
 「十九時四分に海水を注入した直後、官邸にいる武黒(一郎・東電フェロー)から電話がありまして、『官邸ではまだ海水注入は了解していない、と。だから停止しろ』との指示でした。それで、本店の方と話をして、試験注入が完了したので停止するということにしましょうと。ただ、私はもうこの時点で注水を停止するなんて毛頭考えていませんでしたから、いつ再開できるんだと担保のないような指示には従えないので、私の判断でやると。ですから、円卓にいた連中には中止をすると言いましたが、担当している防災班長には、ここで中止命令はするけれども、絶対に中止しては駄目だと指示をして、それで本店には中止したという報告をしたということです」

用語解説

■スクラム 大地震の時などに、原子炉が自動的に緊急停止する仕組み。ただし、炉内の核燃料は熱を出し続けるため、継続的に冷却をしないと、重大事故につながる。
■IC 非常時に原子炉を冷やす装置の一つで、福島第一では1号機にのみ装備。炉内の蒸気を、タンクの水で冷やして水に戻し、炉内に再注入する。作動させると大きな音と大量の蒸気が出て作動中なのがわかるが、東電には運転経験がなかったため、状況がわからなかったとされる。
■RCIC 原子炉隔離時冷却系。非常時の冷却装置の一つで、原子炉の蒸気でタービンを回してポンプを動かし、原子炉に冷却水を注入する。
■HPCI 高圧注水系。非常時の冷却装置の一つで、RCICと同様に炉の蒸気で高圧ポンプを動かし、冷却水を高圧注入する。
■DDFP ディーゼル駆動の消火ポンプ。消防車(FP)との対比で、DDと略されることも。火災時、通常は電動駆動の消火ポンプを使うが、使えない際のバックアップ的存在。原子炉への注水機能もあるが、炉内が高圧だと力不足で注水は難しい。
■ラプチャーディスク 炉内の圧力を下げるベント(排気)配管の途中に設けられたステンレス製の薄い板。弁の誤操作を想定し、一定の圧力が掛からないと壊れず、汚染蒸気が外部に出ないようにする。福島第一では、ベントが遅れる場合もあった。

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