自治体新電力の4割、大手安値攻勢に苦しむ 本紙アンケート

 自治体が中心となってつくった新しい電力会社の約4割が、東京電力や関西電力などの大手電力の安値攻勢に苦しんでいることが、東京新聞が実施したアンケートで分かった。大手電力との関係悪化を恐れ、会社の設立を断念した自治体も。「自治体新電力」は再生可能エネルギーの普及や、エネルギーの地産地消による地域活性化の担い手として期待されている。大手電力からの攻勢が続けば、新たな潮流が停滞しかねない。(西尾玄司、伊藤弘喜)

「東電3割引き提示」採算度外視

 本紙は5~6月、24都道府県の主な自治体新電力36社を対象に経営状況などについてアンケートし、32社から回答を得た。このうち、13社が「大手電力が採算を度外視した値引きを自社の顧客に提示してきた」と答えた。
 群馬県中之条町の「中之条パワー」は今年5月、民間事業者との電気供給の契約2件を、東電の大幅な値引きによって取り返された。同パワーの山本政雄社長は「(電気代のうち)基本料金を3割引きにするという提示だった。明らかに採算割れだ」と憤った。
 東電は「提供している電気メニューについては、客の使用状況やニーズなどを踏まえて適切に設定している」と反論した。

島根・益田市は設立断念、中国電と関係悪化恐れる

 島根県益田市が設立しようとした「自治体新電力」について、競争相手となる中国電力(広島)と協議した結果、中国電との関係悪化を恐れて設立を断念していたことが、本紙が情報公開請求で入手した市の内部文書などから分かった。
 益田市と共同出資で電力会社をつくろうとした新電力「パシフィックパワー」(東京)は、中国電の「妨害」で会社設立が中止になったと指摘。電力市場の公正性を監視する経済産業省に抗議した。中国電は「個別の交渉についてはコメントを控えたい」とした。
 新会社は2019年度中にも、市内の再生可能エネルギー由来の電気などを学校などに供給する計画だった。パシフィックパワーが4月4日に山本浩章市長と面談した時点では、市は設立に前向きだった。
 一方、市の公共施設の電気は中国電が供給しており、新電力の設立で関係悪化を懸念する声が市当局内で出ていた。市内に中国電の発電所があり、国から「電源立地地域対策交付金」が市に出ているほか、中国電から2014年と15年に計1億2000万円の寄付を受けていた。
 4月12日と23日に、河上信男副市長が設立について中国電の幹部と協議したが、理解は得られなかった。市は6月5日に設立の断念を公表。「ほかの第三セクターが事業休止に陥っている中で、新たなリスクを抱えることは望ましくない」などと理由を挙げた。中国電との関係悪化には触れなかった。
 益田市は本紙に「中国電は地域に多大な貢献をしてきた企業で関係悪化を避けたかった」と説明した。
 諸富徹・京都大教授(環境経済学)は「大手電力が自治体新電力に対し、妨害的な行為をしているという話は最近になって聞くようになった。競争相手が増えている上、原発再稼働がなかなか進まず、収益力が落ちている大手電に余裕がなくなってきている表れといえる」と話した。

自治体新電力とは?

自治体が地元企業などと共同で出資してつくる電力会社。現在、全国に約40社。太陽光や小規模水力など地域内の再生可能エネルギーによる発電所や卸電力市場などから調達した電気を、役所や学校などの公共施設、企業、一般家庭などに販売する。国の「エネルギー基本計画」では、エネルギーを供給する多様な担い手のひとつとして期待されている。自治体の経営参加で信用が増すうえ公共施設など一定の需要を確保できるため経営が安定しやすい。

電力自由化後退も 本紙アンケート

 本紙が自治体新電力を対象に実施したアンケートでは、大手電力との競争力の格差を嘆く声が相次いだ。「どこの家庭が太陽光発電設備を設置しているかなどの情報は大手電力が握っている」、「国への事業報告の業務が煩雑。人員が少ない新電力はかなりの負担になっている」-。多様な担い手の参加でサービス向上を目指した「電力小売り自由化」の理念がそがれる恐れがある。(西尾玄司)

大手との競争力格差が鮮明

 関東地方の自治体新電力の幹部は「大手電力が資本力にものをいわせた安値攻勢で、集中的に自治体新電力をつぶしにきたら、とても太刀打ちできない」と話した。
 大手電力が電気料金の大幅な値引きをできるのは、安い電気を安定的に供給できる石炭火力や大型水力などの基幹電源を独占しているためだ。これらの発電所の多くは電力小売りの自由化前に、発電経費に一定の利益を上乗せして電気料金を決める「総括原価方式」によって、国民の電気代で建設してきた。
 一方、資本力のない自治体新電力が、巨額の建設費用がかかる大規模な発電所を新たにつくることは難しい。
 大阪府泉佐野市の「泉佐野電力」は昨年を中心に、大口の契約9件を関西電力に取り返されたという。関電は泉佐野電の客に最大で28%の値下げを提示。泉佐野電は、電気やガスの取引で公正な競争が行われているかを監視する、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会に「正当な料金といえるのか」と抗議したが、調査の結果「適正な取引の範囲内」と受け入れられなかった。
 関電の値下げの影響で、奈良県生駒市は今年2月、住民訴訟を起こされた。生駒市は公共施設の電気の供給を、市が設立した「いこま市民パワー」と随意契約している。しかし、公共施設の電気供給の契約を入札で行っている生駒市の周辺自治体で、関電が従来の半額程度で落札。その結果、市は周辺自治体より割高な電気料金を負担し、市民に損害を与えていると問題視された。
 市民パワーは「半額では採算が取れない。多くの自治体新電力が設立当初の経営を安定させるため、公共施設の電気供給では随意契約だ」と主張した。
 一方、関電は「料金メニューの具体的な内容については営業戦略上、回答を控えたい」とコメントした。
 自治体新電力を含む新規参入業者が倒産し、かつてのように大手電力が市場を独占するようになれば、消費者に恩恵をもたらす適正な競争を通じた電気料金の引き下げや、サービス向上が見込めなくなる恐れがある。
 自治体新電力に詳しい立命館大のラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授は「地域の経済基盤を強化する面からも自治体が主導する新電力の役割は大きい。国は、大手電力との公平で公正な競争条件を整えることが重要だ」と指摘している。

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