東京電力は二十五日、事故から間もなく五年になる福島第一原発を日本記者クラブ取材団に公開した。当初に比べると、敷地の半分以上で放射線量が大幅に下がっているのが確認できたが、1~4号機建屋に近づくにつれ線量が跳ね上がった。作業員にとって厳しい状況が続く。廃炉というゴールへの遠さを、あらためて痛感した。(小倉貞俊)
二日前に降った雪が、日陰ではうっすらと残っていた。線量低下をアピールしたい東電の案内役に「この辺は普通に歩けます」と促され、普段着のコート姿で敷地内を一キロほど歩いた。二年前の取材時には、防護服に全面マスクというつらい装備を義務づけられ、ほとんどバスから降りられなかった。敷地をモルタルやアスファルトで覆うなどの対策が進んだ結果だ。
だが、1~4号機を見渡せる建屋西側の高台に向かうときには、やはり防護服と半面マスクの着用が必要だった。
かつてゆがんだ鉄骨の山だった3号機上部はがれきがなくなり、1号機では建屋カバーの解体に向けて遠隔操作の巨大クレーン車などが取り囲んでいた。
建屋周りはまだがれきや倒壊した補助建屋などが無残な姿で残っていた。高台で線量は毎時七〇マイクロシーベルト(〇・〇七ミリシーベルト)あり、こんな場所にずっと立っていれば年間六〇〇ミリシーベルトも被ばくしてしまう。
バスで高台から建屋周辺を通り抜けたが、2、3号機付近はモニタリングポストが毎時三五〇マイクロシーベルトを示していた。わずか十日前後の作業で、被ばく線量限度(五年間で一〇〇ミリシーベルト)の一年分を超えてしまう値だ。
ボルト締め型タンクから溶接型への置き換えは「やっと一割ほど終わった」(担当者)ばかり。昨年はタンクからの転落死亡事故も起き、タンクには大きな赤字で「安全帯の装着を確認せよ」などと印字されていた。笑顔であいさつを返してくれた作業員たちの無事を祈った。
政府と東京電力は二十五日、福島第一原発で汚染水をためるタンクのうち、漏えいリスクの高いボルト締め型タンクの使用を当面継続する方針を明らかにした。福島県いわき市で開いた廃炉・汚染水対策に関する会議で示した。
廃炉工程表では高濃度汚染水を浄化処理した後の水を「二〇一六年度の早い時期に全て溶接型タンクで保管する」としていた。
しかし汚染水対策の切り札とされる凍土遮水壁の完成遅れや、護岸などの地下水をくみ上げて建屋に移送していることで、汚染水発生量を想定通りに抑制できておらず、タンク容量に一定の余裕を確保するには、ボルト締め型の使用を続ける必要があると判断した。
漏えいリスクの低い溶接型への置き換え工事が遅れていることも影響しているという。
政府担当者は「フランジ型(ボルト締め型)に残っている浄化済みの水の移送が遅れるだけ。漏えいリスクが高まったり、タンクが足りなくなったりする恐れはない」と説明している。