【参院選・争点】原発・エネルギー 推進かゼロ目標か

 「原発は、人権をないがしろにしないと成り立たないものということが、被害者になってよく分かった」。東京電力福島第一原発事故後、福島から東京へ避難した鴨下祐也さん(50)は、そう声を絞り出した。
 2011年3月12日未明、福島県いわき市の自宅を離れた。避難所や親族宅など4カ所を転々とし、ようやく都内の国家公務員宿舎に入居できた。今も妻と息子2人の4人で暮らす。
 勤め先の福島工業高専(いわき市)の再開に伴い、いったんは一人で戻った。だが、放射能汚染の危険性を訴える鴨下さんのような教員は孤立し、次々と退職。鴨下さんも12年10月に辞めた。大学の非常勤講師を務めながら、なんとか生計を立てている。
 国はいわき市には避難指示を出さず、一家は「自主避難者」とされた。避難所では、避難指示が出た区域の避難者からは「けぇれ(帰れ)!」と怒鳴られたこともあった。

東京電力福島第一原発が見える福島県大熊町。町内では事故で出た汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設が進む=2019年6月26日撮影

 自主避難者へのほぼ唯一の公的支援だった災害救助法に基づく住宅提供は17年3月に打ち切りに。早期の退去を求める文書が配達証明で定期的に届く。鴨下さんは「放射能汚染が残っている以上、自宅には戻れない」と打ち切りの見直しを求めている。
 本社加盟の日本世論調査会が2月に行った全国面接世論調査では、福島のような深刻な事故が起こる可能性について85.7%が「心配が残る」と回答した。
 安倍政権は海外で原発を新設する「原発輸出」を成長戦略の柱に位置付けてきた。米国、ベトナム、英国などで次々と新設計画は頓挫したが、世耕弘成経済産業相は原発輸出を進める方針に「変更はない」としている。国内でも、福島事故後に設けられた新規制基準に適合し、再稼働したのは計9基。鴨下さんは「福島の廃炉も賠償も終わらないのに、再び原発を動かすなんてありえない」と憤る。
 昨年7月に閣議決定したエネルギー基本計画は「再エネの主力電源化」をうたった。だが、30年度の数値目標は従来の22~24%に据え置き。原発比率も20~22%と肩を並べ、再エネ普及への本気度は乏しい。
 政府は本年度予算で、新原子炉の技術開発の補助金に6.5億円を充てた。これまで「原発の新増設は国内では必要ない」と説明してきたが、将来の新増設に向け、「原子力ムラ」が実質的に準備を始めた形だ。
 5月現在、福島県から県外への避難者は全国で3万人超。鴨下さんには、来年の東京五輪・パラリンピックが「復興五輪」と位置付けられることに「見せかけの復興をアピールされても」とむなしさを感じる。
 原発を維持・推進するのか、ゼロへとかじを切るのか。参院選では福島の教訓を踏まえたエネルギーの将来像が問われている。 (伊藤弘喜)

挙手による賛否を問う記者の質問に、一人だけ手を挙げない自民党総裁の安倍晋三首相(中央)=3日、東京都千代田区の日本記者クラブで

各党首の考えは? 首相以外は「原発新増設認めない」

 原発・エネルギー政策を巡り、立憲民主党の枝野幸男代表は野党が昨年国会に共同提出した「原発ゼロ基本法案」の審議に応じない与党の姿勢を批判した。安倍晋三首相は、原発停止で電気料金が上昇し、一般家庭や中小企業の負担が増えているとし「原発ゼロは責任あるエネルギー政策とは言えない」と反論した。
 枝野氏は「東京電力福島第一原発事故後の社会状況の変化で、原発ゼロはもはやリアリズムだ」と訴えたのに対し、首相は温暖化対策やエネルギー自給率向上などの課題を挙げ「原発ゼロを直ちに実現するのは責任ある姿勢とは言えない。考え方が違う」と強調した。
 原発新増設への姿勢を問われると、首相を除く全員が「新増設は認めない」と挙手。公明党の山口那津男代表は「(原子力規制委員会の)基準を満たし、地域住民の理解を得られれば再稼働は認めるが、新増設は基本的に認めない立場だ」と説明した。挙手しなかった首相は「自民党、政府も現時点で新増設は想定していない」と述べた。

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